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マリオネットとの距離およそ100m。そこを鎧騎士とローブが突進してくる。
こちらの思うつぼ、静止させて脇をくぐってやろうと俺も正面に走り出す。
だが二体との距離が五十メートルを切ったところで、敵が二手に別れた。両方向からの挟み撃ち。マリオネットの笑い声が聞こえる。
やっぱ怒ったふりだったか。
こうなっては同時に止めることは不可能。絶体絶命。左右から敵が迫る。
──── 予想通りだ。
敵は俺の能力を見ている。ならばこれが取りうる最善。故に必然。
敵が剣を構えた。ここが勝負どころ。俺の力は対象から一秒抜き取ること。それは相手の意識も奪えるということ。だから────
鎧騎士が来る左へ方向転換。剣を振りかぶる鉄の騎士。背後から迫る黒いローブ。剣が振り下ろされた。
「イチ!」
鎧騎士の時が止まった。一秒のカウントダウンが始まる。敵の脇を潜り──
──── ゼロ
背後で何かが叩ききられる音がした。確認せずそのまま走り続ける。
これくらいで斃せないことは先刻承知済み。けれど、時間は確実に稼いだ。── もう、追い付けはしない。
距離残り60m。まだ遠いがもう障害はない────わけがないよな。
耳に届く風切り音。どこからか死が迫っている。
だが、それも予想済み。敵の兵力があの二体だけなどと甘い期待は抱いてない。
敵は確実に死角から来る。上か背後か。逃げる獲物を背後からでは確実性に欠ける。
── 敵を確認している暇はない。
前を向いたまま防御術の魔法障壁を全力で頭上に展開。刹那の後、打撃音、破砕音。それらを置き去りにして走り続ける。
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