イチ秒の力

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 この世には二種類の魔法がある。  一つは学問として体系付けられ、学びさえすればあとは個人の力量に応じて自由に扱うことのできる魔法。  もう一つは先天的に備わりその人のみが扱える特殊な魔法。こちらはごく少数の限られたものだけが持ち、偶然からしか生まれぬ一代限りの魔法である。さらに決まって特異な性質であるため、それを持つ者は後世に語り継がれるほどに目覚ましい活躍をする。  そして、そんな特別な魔法を身に宿して、俺、カイト・リバーシはこの世に生まれた。 「なーに膨れっ面してんの?」  金色の長い髪を揺らして女が語りかけてきた。名はクレハ・ルーニアル、中央魔法学校を首席で卒業、現在は討伐隊で期待の新人として活躍中。  討伐隊では任務着任より三年は新人扱い受けるため、新人といっても彼女は二年間実地で任務をこなした経験ある隊士である。決してひよっこなどではない。  主に魔力移動による肉体強化、そこからの近接戦闘に長けている。俺の二つ上の先輩にしてパートナー。  彼女は向かいの椅子に座るとこちらをじっと見る。 「別に」  目を合わせないで答えると顔を掴まれ無理矢理目を合わせられた。 「まーた自分の力に悩んでるの?いーじゃないの、あなたの力は稀有も稀有、世界を相手取るなんて過去にも片手で数えるくらいしかいないんだから」  手を離して1、2、と数えるクレハさんの手首には隊から送られた白いブレスレット。一人でも戦えるエリートの証だ。それが何よりも羨ましかった。 「とにかくあなたの力は凄いんだから。あなたと組みたがっている人は大勢いる。自信を持ちなさい」  クレハさんはそれだけ言って席をたつと休憩室から出ていった。  クレハさんの言葉が頭に残る。 『組みたがっている人は大勢いる』  それはそうだろう。サポート役としては俺の力は優れている。でも、一人で戦うことはできない。前に立つことすら叶わない。  魔力、並み。身体能力、並み。努力しようが並みの域を抜け出せない。だというのに唯一の頼みである自分固有の魔法は『一秒相手から時間を抜き取る』ことなんだから。  通常人間が絶対に干渉できない事物の一つ、『時間』に干渉するのだから稀少で価値があるだろうよ。でもたった一秒だ。
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