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乾いた空気、燦々と降り注ぐ陽光、大地から沸き上がる熱気が行く者の水分を搾り取らんと張り切っていた。切り立つ岩壁は進路を塞ぎ、岩影には魔獣の足音。踏み締める地面は固く、草木に根を張ることを許さない。
俺たちは目的地へ向かわんとこの険しいククル荒野を歩いていた。クレハさんが先にずんずん進み俺は五間ほど後ろからついていく。
戦わないからと俺は全ての荷物を背負っているがかなりきつい。言い出した手前途中で投げ出すことはしないが。
先に進むクレハさんが突然足を止めこちらを振り返り後方を指差した。
俺は一旦荷物を下ろし肩を軽く慣らす。
「私がしようか?」
「いいですよ、この程度なら自分がやります。」
後ろには魔獣がいた。鋭い歯、白い毛の狼。普段は群れで行動するが、はぐれたのか、仲間が皆喰われたか、狼は一匹だけだった。集団ならまだしも単体ではたいしたことない。
敵は低く構えて今にも走り出さんとしていた。引くのなら見逃すつもりだがどうやらそうもいきそうにない。
視界の中心にヤツを定め対峙する。こちらも迎え撃たんと構え────
──狼が走り出した。
直線上、最短最速で疾駆する。駆け引き無しのガチンコ勝負か。
……悪いな。
「イチ!」
それじゃあ勝負にならない。
目前にて、飛びかかろうと跳ねたところで狼は静止した。
俺は横に回り、こめかみに指を添える。
── ゼロ
「雷弾!!」
雷の魔法で頭をぶち抜いた。
狼は一瞬体躯を痙攣させ悲鳴もあげずに斃れた。
「お見事ー」
いつの間にかすぐ後ろにいたクレハさんが拍手をして言った。それは馬鹿にされているようで気分が悪い。
「あれくらい誰でも斃せますよ」
「でも、あれだけ無駄のない動きで斃すなんてなかなかできないよ?」
「敵が弱かったからですよ。もっと速ければあんなに引き付けることはできません」
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