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俺は荷物を担ぎ前を歩き出す。
そうだ。相手がもっと速かったならば、それだけで俺は勝てなくなる。一秒で仕留められる距離、一歩踏み込んで手の届く範囲内で敵を止めなければならない。
せめて三秒止められればいいが、何度試してもきっかり一秒。
その上この力、同じ相手には一分のインターバルを空けないと効かない。
さらにさらにこの力は、相手を一秒止める、ではなく『相手から一秒抜き取る』である。それは本来流れるはずだった時間を無くすことであり、従って静止させた一秒の間、干渉、変化、外力、森羅万象ありとあらゆることを受け付けない。それ故一秒終わると同時に攻撃をしなければならない。使い勝手が悪いにも程がある。
黙々と歩き進むと目的地の廃墟が見えてきた。台地に佇むその建物は巨大であり、白いコンクリートの壁は劣化して所々ヒビが入っている。
正面に着くと最後の確認として書類を開いた。
場所はあっている。目的は現在廃墟を占領中の魔獣から建物を奪回。二組が既に試みるも帰って来ず、死亡と判断。通信により敵は甲冑、剣を装備していることから『鎧騎士』と判明。
次に装備確認。荷物の中を探る。サバイバルナイフ、閃光弾、手榴弾、救急セット、食料、水……など。その中から必要最小限だけを選んだ。あまり物を持っていくと邪魔になるだけだ。
確認を終えて顔を上げるとクレハさんが正面扉に手をかけていた。頑丈そうな鉄扉は端の方が錆びており開きそうにないが。
クレハさんが扉を押す。すると、扉は軋みを上げて、開くのではなく奥へ倒れ込んだ。
けたたましい音が廃墟内に反響した。今ので侵入がばれたに違いない。
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