導きの謳

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アルセア王国城下町。 賑やかな街道を、一人の少年が歩いている。 青い髪と瞳を持ち、緑の鎧を纏い、背中には自分の背丈よりも長い槍を背負ったまだまだ幼さの残る顔立ちのその少年の方を皆が振り向いた。 「ラゼル選手だ」 「ラゼルくんだ」 姿を見た者達は騒つき出し、街道が先程とは違う賑やかさを見せた。 ラゼルと呼ばれたその少年は名を口にされると恥ずかしそうに俯きながら早足で歩いて行く。 彼がこんなに騒がれる理由、それは、つい先程まで闘技場で行われていた武闘大会の最年少優勝者だからである。 …と、そこへ 「ラゼルくーん!」 「!?」 「サイン下さーい!」 二人組の女性がラゼルの前に現れ、そう言って色紙とペンを差し出した。 「えっと…僕……そんな…」 突然の事な上にサイン等した事が無い為、ラゼルは困惑の表情を浮かべながらどう断ろうかと考えていた。 「サインが駄目なら握手でも!」 ラゼルの表情から何となく駄目だと察したのか手を差し出して握手を求めて来た。 「う…うんー……」 握手ぐらいなら良いかと思いそっと手を出すと、女性はラゼルの手をギュッと握った。 「わぁ。意外と手柔らかいねぇ」 「可愛い~。弟に欲しいわぁ」 「あ、あの…あの……」 キャイキャイとはしゃぐ女性にされるがままに、ラゼルは照れと恥ずかしさで顔が真っ赤になった。 それでも女性二人はやめずにずっと彼の手を握ったり、頬を突いてみたりしている。 ラゼルは段々手汗が滲んで来る感覚に不快を抱き出した。 早く立ち去って欲しい… と、口には出せない願いを何度も胸中で叫んだ。 するとラゼルの背後からまた、 「すみません」 と声がした。 次は何だと思いながらラゼルはゆっくりと後ろを振り向いた。
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