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エルノアで迎えた二度目の朝。
ラゼル、ザレフ、ジューゼの三人は宿を出た。
ザレフの体調もすっかり良くなった様で、顔色も良くなっていた。が、相変わらず声は低くなったままだった。
しかし本人が気にしていない様なので、ラゼルもなるべく気にしない様にした。
「ヴァイパートル行きの乗船券、買いに行こうか。」
まだ眠いのか目元を擦りながらジューゼが言った。
昨日のうちにPDAで予約を取ろうと思っていたのだが、予約確定を押す寸前でジューゼは眠ってしまっていた。
なので、券はこれから買いにいかなくてはならない。
「そうだな。……ん?」
ザレフはふと港とは別の方向に目をやる。その瞬間にラゼルはマズイと思った。ザレフが反応を示すものと言えば、厄介事。
ザレフの視線の先には男に絡まれて困っていそうな赤髪の少女がいた。
このまま首を突っ込んでしまうと、船に乗れなくなってしまう。そう思ったラゼルはザレフの前に立って視界を塞いだ。
「さ、早く乗船券を買いに……」
「っしゃああぁ!」
ラゼルの努力も虚しくザレフは少女を助けに向かった。いや、首を突っ込みに行った。
「あ、ちょ、待って下さいよザレフさん!」
何とか連れ戻そうとラゼルがその後を追い、ジューゼは先に券を買いに行こうかと思ったが、ラゼルだけでは止められそうにも無いだろうと思い、仕方なくラゼルの後ろに続いた。
「あの…、ホンマに要りませんから…。」
「まぁ、そんな事言わずにさぁ…。」
少女は詰め寄って来る男にそう言って首をふるふると横に振っている。
「お前、何してるんだ?」
「ん?」
ザレフが男の肩を掴んで声を掛けると、男は不機嫌そうに振り向いてザレフを睨み付けた。ザレフも負けじと睨み返す。
「ザレフさん、待ってって…あぁ!」
ラゼルはザレフと睨み合っている男を見ると声を上げた。男も「げっ」と言って顔を引き攣る。
その男は一昨日、ラゼルに詐欺を働き掛けた男だった。
「また変なもの売り付けるつもりですか?」
ラゼルが顔をしかめて問い掛けると男は舌打ちをし、ザレフの手を振り解いて一目散に立ち去った。
「あ…!…逃げ足早いなぁ……」
男の姿はあっと言う間に見えなくなり、ラゼルは少し呆れながらポツリと呟いた。
そして漸くジューゼが追い付いて来て、その場で欠伸をした。まだ目が覚め切っていないようだ。
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