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カウンターから少し離れたテーブルを囲む私達のお喋りは、止まるところを知らない。
「それにしても登くんも鈍感よね」
「麗が奥手すぎるのもアレだと思うけどね」
「でも、さすがに気づくでしょ! 自分のいるとこいるとこに麗がいるのよ? 下手すりゃストーカーよ」
香菜は辛辣な言葉を平然といい放ち、近くを歩いていたウェイターにオードブルの盛り合わせを注文する。
「そんなぁ……」
「まぁ香菜が言いたいのも分かるけど……オッカケの方が正しいんじゃない?」
メニューを見るのに夢中だったのか聞いていなかった香菜に、オッカケよオッカケ、と春が繰り返す。
「というか、香菜は昔から本当に食べるわね。そんなに食べてて、太らない体質なんて羨ましいわよ」
「そう? まぁ仕事のストレスをご飯で発散するからね! 美味しい物食べて、美味しいお酒を飲めればいいのよ」
そう大口を叩く香菜は、ぶっちゃけ私達の中で一番美しい。
本人によれば全く気を遣っていないようだが、肌は透き通るように綺麗で、セミロングの黒髪も毛先まで艶やか。男なら誰でも羨むような体型に、薄化粧に包まれた可愛らしい童顔。
こんな最高の容姿を持っているのに、飽きっぽい性格からかどんな仕事も長続きしていないのが残念である。
「上司とか面倒すぎて会社入りたくないし、でも肉体労働とかもっての他だし、ましてや風俗は論外でしょ?」
「あれ……香菜、エステティシャンが夢って言ってなかった?」
麗は、小学校時代の香菜を思い出す。
非現実的な夢をとりあえず書いていただけの私からすれば、堂々と夢を語る香菜は格好良く見えていたのだ。
「ああ、あれね。諦めたわよ、とっくに。資格とか取るの面倒だしね」
「そ、そうなんだ……」
聞いてはいけない事を聞いてしまったかのように、気まずい空気が流れ始める。私は、場を取り持つために何とか話題を変えようと無い頭を絞った。
「そうだ、春。次は何の話書くの?」
我ながら無理矢理な振りではあったが、春は私の意を汲んでくれたのか、ちゃんと乗ってきてくれた。
「そう、次の話ね。私は方向性を変えて女同士の友情ものにしたいんだけど、編集さんが許してくれなくてさ……」
春が話し始めると、丁度香菜が注文したオードブルが運ばれてきた。
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