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スノー・フェイス
寒い。
もう何時間こうしているだろうか。時間感覚までもが寒さに侵略され、奪われていく。
ああ、いつものこの時期ならあの暖かい炬燵の中で漫然と時を過ごしていられたのに。
何故、俺がこんな寒空の下で侘しく震えてなければならないんだ。やはり、納得いかない。
五年ほど前、俺が気ままな生活を送っていた頃ある少女と出会った。とは言え、少女の家の近所の塀の上で寝ていたところをいきなり捕まえられたのだが。
あの時の驚きは今でも忘れられないが、とにかく彼女との出会いは、そんな身勝手で自己中心的で他人の迷惑を気にもしないはた迷惑な人間によって作られたものだった。
だが、数時間前に少女は俺を捨てた。
いや、少女と呼ぶにはもう相応しくないのだろうか。確か今年の春頃から、彼女は『中学校』とかいうところに通っていた。
……そのことで思い出したが、人間は『平日』と『休日』によく拘る。
「今日は、日曜日だ!」
と、よく彼女は喜んでいた。
全く、おめでたい考え方だ。
平日や休日、という概念を作るからそんな風に一喜一憂するんだ。
俺みたいに毎日決まったことを繰り返し、生活に変化を求めなければいいものを。
それに、人間はすぐに『縛られる』。
休日やら給料日やら外食やら金やら人間関係やら。
つくづく、人間はバカだと思う。
それに比べて、俺は何にも縛られない悠々自適な生活を送っている。
本当に、人間はバカだ。
そして、自己中心的だ。
あんな風な身勝手に俺をあの家に拘束しておいて、自分の都合が悪くなれば、ポイだ。
本当に、納得いかない。
しかも、この段ボール箱を置いて去っていく時の、あのとってつけたような哀傷の表情ときたら。
怒りで、体が震えた。
忘れてたまるか、俺は捨てられたんだ。
だが、今更彼女を恨んだところで何も始まらない。今は、これからどうするかを考えなければ。
とりあえず、この寒さが火急の問題だ。このままじゃ、みるみるうちに俺は衰弱し、天に召されるだろう。
だが俺は動くことができない。
いや、動こうとしないのか。
何故なのかは自分でも分からない。飼い主に捨てられ、自棄になっているのだろうか。どうでもよくなって、死を望んでいるのだろうか。
自分でもよく分からない。
俺は……何がしたいのだろう?
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