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実際、薄気味悪いものはあった。
風がないのに、そよそよと揺れる枝葉の影が窓に映る、緑豊かな森に鳥の姿はない。
まるで、何かを避けるように、恐れるように……
居心地の悪い精謐さが満ちた森だった。
ある時、近づきたくない気持ちとは裏腹に森に入ることになった。
ふざけて蹴っていたラグビーボールが、独特の歪な弧を描き森の奥へと姿を消した。
「あっちゃー、やってもうたな……昇太、とって来てや」
「アホか!なんで俺がいかなアカンねん!俺蹴ってへんやんけ!」
「頼むわ~、俺あの森はちょっと……」
「いやいや!俺も嫌やしな!あっち古墳なんやろ?絶対嫌ぁ」
「マジで頼む!!飯おごるから!!」
「……男に二言はないな?」
「当たり前やんけ!行ってくれんの?」
「今宵、ステーキが俺を待っている!」
「っ!?ま、まぁしゃーないか……ほな頼むで!」
「任されよー!!」
暢気な会話にいつもの怖がる気持ちは薄れていた。
何故断らなかったんだろう?
今にして思えば、軽率な、愚行であった。
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