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体が凍りついたように寒く、目が覚めた。
太陽が沈もうとしていた。
強ばった体をゆっくりほぐしながら立ち上がる。
芯から冷えきった体を擦る。
「あれは夢やったんかな……?それにしては随分リアルやったしな……」
薄暗く、光の差さない森。
恐る恐る周りを見渡すが誰もいない、何も聞こえない。
安堵しかけたその瞬間、視界の端に何か、不自然なものが写った。
ゆっくりと
ゆっくりと
近づき確認する。
それは墓、ではなく何かの記念碑のようなもの。
雨風にさらされ傷んだ記念碑に書かれた名前、『楠木正成――』
鎌倉から室町へと時代が移る世に現れた武将、忠皇の士とも言われた人の記念碑が何故ここに?
まさか、楠木正成、が?
さっき現れて斬ったのは――――
私は走った。
大学の裏に、クラブ棟へとひた走った。
夢中だったせいか、古墳に辿り着いて初めて気付いた―――
声が聞こえない!
どこかで不安と安堵を抱えつつも小山に近づき、その姿を見る。
山が崩されていた、そしてボールが側に転がっていた。
私は慌てて崩れた山を必死に直しながら心の中で謝罪していた。
すっかり闇に呑まれた森の中、息を整え直し、小山を背に帰路につこうとした。
ふと声が聞こえた―――
感謝とも謝罪とも取れそうな弱々しいカラスの声が
あ―
と響いた。
Fin.
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