719人が本棚に入れています
本棚に追加
/125ページ
――――十二月。
製菓会社の企てで人気が出たハロウィンが終わると、クリスマスツリーがお目見えする。
十二月になれば、そこらじゅうでクリスマスソングが流れはじめる。
テレビはケンタッキーのクリスマスパックを宣伝し、かの有名な歌が俺の頭を乗っ取っていた。
恋人達の奇跡、クリスマス。
まだ十二月は始まったばかりだ。
俺は、馬鹿でかいツリーの下で待ち合わせをしていた。
しかし、俺は胸を踊らせて待っていたわけではない。
少なくとも、今のところはまだ幸せな人種の一員はずだ。
俺は教員に採用されて一年目。
待ち合わせをしている彼女は、同じ大学の先輩だ。
エリートデザイナーとしてバリバリ働いている。
お互い忙しく、立派な社会人として働いている身だから、会うのは一ヶ月ぶりだった。
会うキッカケになったのは、彼女からの電話だ。
『私、別れたいの』
信じられなかった。
だから、彼女が働くオフィスビルの前の15メートルはあろうかというツリーの下で待っている。
俺は出勤に車を使わない。
電車を乗り継ぎ、駅から本気で走り、ひたすら彼女を待ち続けること早1時間。
彼女が玄関から出てくる気配は、無い。
先ほどからかけ続けている電話にも、携帯にも彼女はこたえてくれなかった。
俺と付き合っていることがそんなに苦痛だっただろうか。
会えない時間に、他の男とできてしまったのだろうか。
俺はたかだか公務員。
くらべものにならないからなぁ……。
被害妄想だけが膨らんでいく。
最初のコメントを投稿しよう!