赤い服の爺さん

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――――十二月。 製菓会社の企てで人気が出たハロウィンが終わると、クリスマスツリーがお目見えする。 十二月になれば、そこらじゅうでクリスマスソングが流れはじめる。 テレビはケンタッキーのクリスマスパックを宣伝し、かの有名な歌が俺の頭を乗っ取っていた。 恋人達の奇跡、クリスマス。 まだ十二月は始まったばかりだ。 俺は、馬鹿でかいツリーの下で待ち合わせをしていた。 しかし、俺は胸を踊らせて待っていたわけではない。 少なくとも、今のところはまだ幸せな人種の一員はずだ。 俺は教員に採用されて一年目。 待ち合わせをしている彼女は、同じ大学の先輩だ。 エリートデザイナーとしてバリバリ働いている。 お互い忙しく、立派な社会人として働いている身だから、会うのは一ヶ月ぶりだった。 会うキッカケになったのは、彼女からの電話だ。 『私、別れたいの』 信じられなかった。 だから、彼女が働くオフィスビルの前の15メートルはあろうかというツリーの下で待っている。 俺は出勤に車を使わない。 電車を乗り継ぎ、駅から本気で走り、ひたすら彼女を待ち続けること早1時間。 彼女が玄関から出てくる気配は、無い。 先ほどからかけ続けている電話にも、携帯にも彼女はこたえてくれなかった。 俺と付き合っていることがそんなに苦痛だっただろうか。 会えない時間に、他の男とできてしまったのだろうか。 俺はたかだか公務員。 くらべものにならないからなぁ……。 被害妄想だけが膨らんでいく。
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