明日の朝は… …

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「私ね、アルスくんの来てくれる30日位前に、1人で城下町の市場に行ってたんです。普通に行ってた、王都の市場です。 いつもお世話になっているパン屋さんで、買い物して帰ろうとしたら、急に誰かに腕を掴まれました」  少女にしてみれば、大層力強く腕を掴まれて、思わず小さく、イタッと声を洩らしてしまったという事でした。 愛らしい顔を痛みでしかめながら振り返ると、見たことも会ったこともない男が3人いたとの事です。 しかもその姿は、見ただけで職業"兵士"と分かるものでした。 『おい、何で巫女の衣装をきた子どもが、法院の学校がある時間に1人で買い物なんぞしている。巫女の姿のまま学校をサボるとは、良い度胸だな』 高圧的に言われ驚きながらも、リリィは腕を掴む兵士を筆頭に3人の兵士を観察します。 服装を見れば確かにこの国の兵士の物であるし、腕章をみれば街を警らを任務とする役目の部隊とわかりました。 ただ3人の兵士からやけに、不健康そうな印象をリリィは受けます。 肌の色も悪いし、瞳の白目の部分がやけに濁って見え、何より彼らが持っている雰囲気が、少女には不快で仕方ありませんでした。 警らの兵士なら、リリィも顔見知りの兵士が数人いましたが、今腕を掴んでいる兵士達は全く知らない顔です。 明らかな悪漢なら、リリィだってウサギの賢者に教わった魔法で、それなりに対処が出来るつもりではありました。 けれども相手はどうやら"兵士"で、この場合下手な態度をリリィがとってしまったのなら、平穏な日常を望む、ウサギの賢者に、迷惑をかけてしまうかもしれないという可能性を含んでいるのが、少女にも考えが浮かび、躊躇われます。   その躊躇っている間も、ニヤニヤと値踏みするみたいに、自分を見る男の兵士達の視線が嫌らしく感じて仕方がありません。 ただそれより何より、大好きなウサギの賢者に迷惑をかけるのがリリィは最も嫌でした。 (どうしようかしら) 腕を掴まれたまま嫌悪の表情を浮かべ、考えて黙っていると、先程出たばかりのパン屋から老店主のバロータが出てきてくれました。 『兵士さん、その子は、リリィは郊外に住む賢者様の巫女さんだよ。幼いが一応護衛の為の巫女として教会に、登録もされている。 身元はしっかりしているから、連れて行っても骨折り損にしかならんですよ』 どうやら事の顛末を見ていたらしく、老店主バロータは店の外で絡まれているリリィを見つけて、急いで店から出てきて少女を救う為に声をかけてくれたようでした。 『ああ?!王都の近辺に、賢者の護衛部隊なんて聞いた事がない!。爺さん、下手に誤魔化すと上に言って店を閉めさせるぞ!!』 屁理屈としか思えない脅しで、3人の兵士は邪魔をするパン屋の店主を追い払おうとします。 けれども気骨のあるパン屋の老店主は憤慨の表情を浮かべ、腕を捕まれたままのリリィの側に近付こうとしました。 『何だ、爺さん誑しこんでまでサボりか?』 その様子に、視線で合図を送って残りの2人が帯剣している兵士の剣に手を伸ばしたのを見た後、兵士が気持ち悪く笑いつつリリィの腕を掴んでいない手で少女の白い顔を顎から乱暴に掴みました。   それでもリリィが持ち前の負けん気で睨みかえしたなら、笑っている当人達以外には不快にしか受け取れない笑い声をあげられました。 ナマイキー カワイイー もっと怒ってー 恐らく成人しているだろうに、まるでリリィより年下か、思春期で落ち着かない子どもみたいに(はやし)たてるような言い方をしていて、呆れと怒りで頭が真っ白になってしまいそうだったと口にします。 「本当に、馬鹿らしくて、大人のクセにあんな言い方するなんて、信じられなかった!」 そして思いだした時、軽蔑に満ちた少女の声が、厨房に木霊しました。 思い出したリリィは、小さなその手でギュッとフワフワとした造りの巫女の衣装のスカートを掴んでもいます。 柔らかい巫女の衣装に、深いシワがリリィの細く小さな指によって、刻まれていました。 多分この魔法が得意そうな少女なら、余裕で魔法でやり返せる事も出来たのでしょうが、やはりいきなり屈強な男の兵士、3人にも囲まれた事は、大変な恐怖になっているようでした。 「それで、どうやってそこは乗り切ったの?」 今こうやってリリィが、どこも傷付いた様子もなく、話している事で、その場を乗り切った事はわかります。 ただアルスは自分なら、嫌な記憶ならこれ以上を話しを止めたままよりは、過去の話でもその状況を脱した方が良いと思えて、先を促しました。  そしてそれを尋ねると、少女の緑色の瞳が、明るく輝き、スカートに刻んでいた指の力は抜けて、リリィは両手に拳を作り上下に"ブンブン"とする様子に、アルスは、空色の瞳を丸くすることになります。 「それがね、アルスくん!遠くから馬の鳴き声が聞こえたと思ったらね!」 軽く興奮気味ながらも、顔を紅くして、何より元気に語り始めたので、アルスは黙って少女の話を聞くことに専念します。 「全く知らない、とっても綺麗な騎士のお姉さんが、馬に乗って来てくれたの!。女性の騎士さまはね、腕にしている腕章には国旗に"蝶"が刺繍されてあったの!」 リリィからの"腕章"の説明に、兵士のアルスはまた驚かされます。 「えっ、確か蝶の模様って」 この国の識別のマークに"蝶"が使われる部隊は1つだけでした。 「はい、賢者さまに教えてもらいました。王族護衛騎士隊の印ですよね。私は、女性の騎士さまを存じ上げなかったんですけど―――」 女性騎士は、馬を飛ばしてリリィとリリィを掴む3人の兵士の前で、わざと(いなな)かせるように鳴かせて、止めます。 『これはこれは、賢者の世話役として登録されている、巫女殿ではないですか。 こんな往来でいかがされたのですか』 e88430ac-53bf-4189-95aa-2b8fd6eb1285 リリィに対して、凛としながらも柔らかな声で、馬上から女性騎士が尋ねました。
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