魔法鏡からこんばんは

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魔法鏡からこんばんは

45c23457-0317-4c5c-9dd5-0e9df05f8992 部下が寝静まってから、どうやら『現・上司ウサギの賢者』と『元・上司アルセン・パドリック』は、お話を始める様です。 未成年は概ね寝台に入る時間、リリィとアルスという年若い部下達が就寝したのを、魔法屋敷に住み着いている風の精霊達が賢者の長い耳に報告をします。 賢者は長い耳を、ピピッと動かして精霊に向かって"ありがとう"と小さく呟いたなら次の瞬間にはまるで見計らったかのように、賢者の仕事部屋となる書斎の隅にある、魔法鏡が発光しました。 鏡にはアルスをウサギの賢者に配属させた責任者、アルセン・パドリックが映し出されます。 アルスがリリィに説明した通りの、"男なのに美人"の人物で金髪に緑色の瞳、綺麗に整い過ぎている顔立ちの男性だが、軍服姿で佇んでいました。 『こんばんは、"ウサギの賢者殿"。おや、仕事中でしたか?』 e69547c0-3420-460c-bc21-21448a7c621d 部屋の隅にある魔法鏡からは、ウサギの賢者が椅子に座して、フワフワとした身体の何倍もある机に向かい、羽ペンを動かしている後ろ姿しか見えません。 「ああ、アルセン。ちょっと、待っていてよ、もうすぐ終わるから。 無理矢理世話をしてもらった新人君の事は、やっぱりちゃんと話さないといけないしね」 後ろを振り返らずにウサギの賢者が応えるのにも、慣れた様子でアルセンは小さく頷きました。 『ええ。配属先の上司に、配属された兵士の様子を聞くのは、配属を決めた私の仕事で責任と義務ですからね』 見せる相手がいないのが勿体ないとも思える笑みを浮かべたまま、アルセンは鏡越しに、羽根ペンを動かすこの国の最高峰の賢者の後ろ姿を眺めます。   程なくしてウサギの賢者が、鋭い硬い爪をパチリと弾くと、部屋の隅にある魔法鏡に映っていたアルセンの姿は、賢者の机にある丸い卓上の魔法鏡に移っていました。 賢者は一度だけちらりと鏡に映る"美人"を、丸い眼鏡越しの円らな瞳で確かめてから、またフワフワな毛で覆われた手で持つペンを走らせ始めます。 『アルスの事は、どうやら気に入ってくれたようですね』 アルセンが声をかけると、ウサギの賢者は口角を上向きにキュッと上げているが、口を開いて応えるまではしません。 そんな賢者の顔を見て、アルセンは澄ました顔になり、白い手袋を嵌めた手で、自分も羽ペンを手にとり、予め取り出していた用紙に何かを筆記し始めていました。 "キュッ"と音がして、先にウサギの賢者の方の羽ペンの動きは止まり、それから仕上げとばかりに、引き出しから羽ペンを握ったまま判子を取り出して、紅い朱肉も取り出し、慣れた仕種でポンと押し、小さな逆三角形の口から、髭を揺らしながら息を吐き出します。
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