魔法鏡からこんばんは

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f3268372-7163-42d9-ac82-32e8f286489f 何故ウサギの賢者がその場に居なかったのに、アルスとリリィの会話の内容を知っていたかのには、はっきりとした理由(わけ)がありました。 配属された先の上官は、今回の場合はウサギの賢者は、新兵を"監視"をする義務がありました。 そして新兵自身は、監視されている事実を知りません。 ある意味プライバシーも何もないと感じられる事ではありますが、一般的には軍学校を離れた途端に羽目を外さないか、そしてウサギの賢者の場合は"国の貴重な人材"を護る為と、軍上層部が機密に作った命令でもありました。 そして、そういったのがウサギの賢者が頑なに兵士の配属を嫌がる理由(わけ)の1つでもありました。 "興味が無いものを、見せつけられる事ほどつまらないものはない" そんな言葉を吐いて、護衛騎士をつける事を要請した、軍部の命令を退けた過去もウサギの賢者にはあります。 新人兵士の配属先への監視の義務期間は、取り敢えず月の満ち欠けが一回りするまでと設定されていますが、それが過ぎたなら配属先の上官の裁量で、自由に取り止める事が出来ました。   けれどもウサギの賢者は出来るものなら、月の満ち欠け関係なく直ぐにでも止めたいと考えています。 自分の噂話に対してアルセンに応戦しながらも、ある意味監視を早々に止める方向に、話の流れを変えようと実は目論んでもいました。 『しかし、拝見させて貰った限りアルスとリリィさんの距離を縮める為に、賢者殿は、わざと悪者になった様ですね。 2人は観察させて貰った所、中々馬が合うようで何よりでした』 しかしながら、アルセンも賢者からの無理な要求は昔から慣れたものなので、話の流れの主導は譲るつもりはないようでした。 ウサギの賢者はアルセンが全く譲るつもりがないのを早々に察して、また長い耳を半分に曲げて不機嫌さを如実に表現しますが、魔法鏡に映る美人な軍人は、不機嫌なモフモフした存在に構わず話を続けます。 『リリィさんは可愛らしくて強気な面がありますが、素直に頭を下げる事が出来るなんて、とても良い子ですね』 ところが"秘書(リリィ)"の事を誉められ、曲がっていた長い耳がピクリと動かすという実に判り易い反応(リアクション)を賢者は起こしていました。 加えて、鏡の中にいる綺麗で話術が巧みな軍人(アルセン)は、これからも主導は手放さず上手く話を交わし続けるのも、"新人兵士(アルス・トラッド)の監視を止めたい"と駄々っ子を続けても無駄だと諦め、曲げていた耳もまたピンと伸ばします。
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