魔法鏡からこんばんは

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「リリィは本当に可愛い、良い子だからね。 ただ、軍隊嫌いのワシに気を使って、アルス君にキツく接するだろうと予想はしていたから、ちょいと一芝居うたせて貰ったんだ。  まあワシが、今でも"兵士の掘る穴"は、大嫌いなのは本当だけれども」 リリィが誉められた事には、嬉しそうに話してはいましたが、最後の方の言葉には暗い重みを滲ませていました。 アルセンには鏡越しでも、ウサギの賢者が"兵士の掘る穴"に、昔から変わらない"憤りと悲しさ"を持ち続けているのを察します。 正確にいうならば、ウサギの賢者が"兵士の掘る穴"の話を聞いた時、傍らにいた心優しい女性(ひと)を絡めて思い出す事で、心を痛めているのが判りました。 『……とりあえず本日はここまでにしましょうか、明日はアルスとリリィさん、城下の街に出るんですよね。何事もないとは思いますが』 日勤表で早速明日の予定を眺め確認しながら、アルセンは話を切り替えました。 ウサギの姿をした賢者が、彼女の事で必要以上に、自分の事を責めないように、賢者も後輩でもあるアルセンの気遣いの言葉に乗ります。 「リリィに危害が及ぶ事は、もうないんだろう?」 大切な巫女の女の子に関しては、魔法鏡に映るアルセンを見つめるというよりも睨みつける様にして、ウサギの賢者がギョロリと円らながらも獣の瞳で鋭い視線を送り、確認しました。 『アルスが護衛をするなら、襲った方が後悔するような返り討ちにあいますよ。ただ、くだらない事が1つだけある事はありましたね』 ただ、視線を向けられ確認の言葉を強く吐かれても、"柳に風"と言った具合で、美人の軍人は白手袋を嵌めている両手を、机の上で重ねつつ、更に続けます。  『"つまらない因縁"を、万が一ですが、アルスがつけられるかもしれないという事です』 そして重ねていた右手の方を上げて、形の良い唇に、白い手袋を嵌めた指を添えて、アルセンが感情的にもつまらないといった雰囲気を十分滲ませながら、そんな返事を行いました。 「何だいそりゃ?。アルス君がうちに来ることで、何かやっかみを受けるとでもいうのかい?。 そりゃあ、優秀なお兄ちゃんを、アルセンに頼んでやや強引に融通をして貰った自覚はあるけれども」 ウサギの賢者の疑問を含んだ反応(リアクション)に、つまらなそうにしていた表情(かお)を一変させて、美人な後輩(アルセン・パドリック)は綺麗に、笑みを浮かべます。 けれども20年程の付き合いの経験が、"綺麗ではあるが、何かしらを含んでいる笑顔だ"と、早々に察知していて先輩でもあるウサギの姿をした賢者は、小さな鼻をヒクヒクとさせていました。
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