魔法鏡からこんばんは

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『すみませんが、私はまだ忘れる事が出来ません。ただ、残った、残され生かされている私達は、生きなければと考えています。 それが、貴方の愛した人の願いで、望みです』 闇の中で輝くように咲く真っ白な花畑の中に、4人の人がいる。 花畑の中央に、二振りの小刀が貫くように胸元に刺さった、優しく美しく、そして何より、心が"強い女性"。 その女性(ひと)を支えて抱き抱えるのは、鳶色の髪と瞳を持った、まるで玩具の様な丸い眼鏡をかけた、"強い女性"を伴侶として誓いあったばかりの青年でした。 そしてそこまで離れていない場所では、支えられている女性と鳶色の青年と共に、これまでどんな難事も協力して、駆けぬけてきた2人の親友であり仲間がいました。 その1人はまだ年若い、少年と言っていい傷だらけのアルセン。 そして、そのアルセンを支え、庇うように抱える、日に焼けた褐色の肌を持つ逞しい身体の男。 鳶色の青年は、アルセンと日に焼けた男が見た事がないほど、泣き叫び女性を支えて抱き締めていました。 『――――、私の、最後のお願い、聞いてくれる?』 小刀に胸を貫かれながらも、"強い女性"は赤い唇で、鳶色の青年の名前を呼んで願いを口にしたのが、その耳に届きました。 『アナタは、私だけの"英雄"でいて』 そう言って、強気にそして、悔しそうに微笑んで、青年の腕の中で女性は逝ってしまいました。 ウサギの賢者とアルセンは、1人と1匹、2人きりで再会してしまったならば、その"悲しい情景"はどうしても切り離せない記憶(事実)でした。 本当ならば、楽しい思い出ばかりを共有できるはずの親友なのに。 花畑の4人の仲間は、先輩後輩から始まった縁は、最初こそぎこちなかったけれど、それが打ち解ける事が出来た時、掛け替えのないものとなっていました。 不味いような旨いような軍隊の飯を一緒に食べたり、不可能と言われた作戦を4人でこなしてしまったり、戦の中で、どうしようもない悲しみや空しさに出逢う事もあったけれど、それを遥かに凌駕する楽しい思いでがありました。 けれど、あの女性を、ウサギの賢者となった"人"の、伴侶を助けられなかった、命を救えなかった事が、ウサギの賢者とアルセンが親友として話す時に、大きな影を落としてしまいます。 人の"命"と言うものが、大切で重たいものとわかっていて、どんな命でも、代えの利く命なんてないと、人の有り難みを知っている仲間だから、どうしても気持ちの整理がつけきれない、そんな容赦のない現実だけが残されて十数年が過ぎ。  『―――では、他の部隊の方からも連絡がきますので、失礼します』 アルセンは秘書の女の子と同じ綺麗な緑色の眼を伏せて、礼を口にします。 「仕事が済んだら、奴と呑みに行ったらどうだい?」 優しい後輩で親友に、せめてもと言った具合で、ウサギの賢者は、アルセンにとっての掛け替えない親友で、自分の旧友と呑みに行くことを提案しました。
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