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上司と初対面
金色のカエルから、離れないようについて行くアルスでした。
「うわぁあ」
金色のカエルがスイスイと空を泳ぎながら進む速度は、アルスが普通に歩く速さであったので難なく追いつくことも、お婿に行く未来も守る事が出来ました。
感嘆の声をあげたのは、魔法が全く得意ではないアルスでも分かる程、魔法の力が、賢者の屋敷に張り巡らされていた事からであります。
それは勝手に掃除しながらもちょっかいをだしてくる箒だったり、アルスが通りすぎると隠れるように、シャーッと音をたてて畳んでしまうカーテンだったりと、どちらかと言えば幼い子どもにむけた絵本の中にある、御伽噺を連想させるものばかりでした。
「ゲココッ!」
そうこうしてアルスが魔法屋敷に感嘆している内に、金色のカエルが一声高く鳴いて、あるドアの前の空中で止まります。
カエルとアルスの眼前にはドアノブの所に、オタマジャクシの彫り細工が施されている、重厚な木のドアがありました。
よくよく見てみれば、ドア全体が大きな池をモチーフにしたデザインだとアルスは気がつきます。
「ゲコ!」
再び一声鳴くと、目の前にある池をデザインされドアにカエルは"飛び込んだ"。
「ええっ?!うわあ」
アルスが驚きの声を後目に、金色のカエルは最初からドアの模様細工であったかのように、溶け込み模様となります。
扉に金の体の色をしたカエルのデザインが、恰も最初から施されていたような状態に、アルスは激しく瞬きを繰り返すばかりでした。
「驚きっぱなしの"新人兵士くん"。ドアは開いてるよ、遠慮しないで入ってきなさい」
扉に越しに穏やかに感じられる男性の声で呼ばれて、アルスは身嗜みを軽く整えます。
(失礼がないようにしないと)
緊張に少しだけ手を震わせて、オタマジャクシのドアノブに手をかけて、アルスは凛々しく声を出した。
「失礼しま―――って、アレ?!」
ガチャっと音がして、押し開こうとするドアがひらきません。
(あれ?押しても……引いても開かない)
アルスが数度ノブを回して、もう一度押しても引いても、やはりドアは前後にはうごきませんでした。
「あ、そこね、ドアノブ掴んでから回して、横に滑らせる"引き戸"だから」
中々茶目っ気のある様子の"上司の声"が、聞こえます。
「失礼します」
アルスは告げられた通り、ドアノブを回し、スーと横にスライドさせて漸く書斎の入り口を開いて引き扉と共に、軍靴の踵をカチリと合わせた音を鳴らし、入室しました。
「本日をもって、賢者様の護衛部隊に配属されました、アルス・トラッドです」
敬礼をビシッとして、言ったアルスの視線の先に、人の姿はありません。
薄暗い部屋、美少女が言う書斎には、両サイドに大きな本棚があって、その全てが様々な本で埋まっていました。
そして、それでも納まり切らずに、積み上げられている書籍も部屋のあちこちにあります。
アルスの視線の先には、部屋の一番奥に設置されている大きな机があって、多分揃えて造られている豪勢な椅子があって、その正面は、入り口の方を向いていました。
その豪勢な椅子の正面の場所に座しているのは、幼児くらいの大きさで緑の洒落たチョッキとコートを着せられた、フワフワな茶色の毛が印象的な小さい丸い眼鏡をかけた、ウサギのぬいぐるみでした。
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