第零章

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 曇天敷き詰める灰色の空から、透き通った雫が、とどまることを知らないかのように、降り続けていた。  ぽちゃぽちゃ。  ぽちゃぽちゃ。と。  その数は幾千にも及び、この広大に続く大地、海洋に降り注がれる。  ぽちゃぽちゃ。  ぽちゃぽちゃ。  それは、僕の目の前に落ちていくそれにも同じことをいえる。  とどまることを知らずに、先程から数多の数の雫が、足下へと落ちていく。  ぽちゃぽちゃ。  ぽちゃぽちゃ。と。  僕はその雫を、それとは対照的な、濁った瞳で見つめ続ける。  自分の瞳が濁っているなどと、なぜそんなことを言い切れるのか、と言われれば、それは分かるからとしか言いようがない。  僕は、その滴がふと、羨ましくなって、そ、と──  ──その手をのばし  ──まるでそれを包み込むようにして  ──拳を握りしめた。
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