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しかしそれは手からこぼれ落ちて、地へと滑り落ちていく。
逃げていく。
世界が──目の前から。
レイ
──零さま……
ノイズ。
不意に届く、透明なノイズに、僕は振り向く。
そこには、まだ幼さの残る少女が、お辞儀をするように、頭を下げながら、立っていた。少女は顔を上げると、肩まであるその髪を手櫛で掻き揚げ、着用してある着物を少しばかり直す仕草をした。
「お時間です」
どこか、哀しそうな顔をしながら、縁側に座っている僕に、彼女はそう告げる。
僕はそれをどこか他人事のように聞き流し、返事もしないうちに立ち上がり、彼女の脇を通り抜けた。
「お気をつけて……」
そんな言葉が耳に届いたが、またも僕は聞き流し、奥の襖へと入っていった。
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