第零章

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「失礼します。宜しいでしょうか?」  僕は、喉の奥からしわがれた声を絞り出す。  そしてから、襖の奥からの対応を待った。  暫くすると、襖に仕切られた部屋の奥から、ひどくしわがれた声が聞こえてくる。 「入れ」  一言。  質問に対し、肯定でも返答でもなく、命令。だが、そんなこともお構いなしに、僕は丁重に両手で襖をすっ、と開けた。  中を一瞥すると、そこは巨大な広間になっていた。下には畳が敷き詰められており、旅館の大広間を連想させる。  しかし、旅館の大広間とは対照的に、くつろぎを与える雰囲気ではなく、中にはぴりぴりとした擬音がお似合いの、少しばかり張りつめた雰囲気が漂っていた。  中にいたのは、七人。  一番奥の掛け軸の前に堂々と座っているのが、元老(ゲンロウ)。元老と呼ばれているものの、その本来の意味である国会に対しての功労などは、一切してはいない。それ以前に、政治家ですらなかった。  ここでは、それぞれを与えられた“尊号”で称す。ここでの最上敬称は、先程の元老である。  そして、その元老を挟むようにして、平行に二列、初老のいわゆるおじさんが、三人ずつ、そこに座っていた。元老に対しての敬意の表れなのか、皆、一様に頭を下げている。        シモツキ  そして全員、霜月の家紋が背中に描かれた着物を着ていた。
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