第零章

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 僕は視線を浴びながらも、元老の指示通りに、座布団へと座り込む。 「今日主を呼び出したのは、他でもない、主に伝えねばならんことがあるからだ」  元老は、しわだらけの顔を、さらにしわくちゃにして、僕を見据える。 「そして──儀式を行うためでもある」  ──どくん。   心臓が、ひときわ大きく動いた気がした。  ──どくん。どくん。  それはどんどん強くなり、その間隔も速くなってくる。 「主を──」  視線がより一層強ばる。  心臓の音は、ついには太鼓をたたくように激しく鼓動を始めた。  ──止めろ。  ──止めろ。  元老の口が、ゆっくりと開かれ、その奥から、空気をふるわせる振動が、僕の耳へと直進してくる。  そして── 「主を、正式に霜月の跡取りに任命する」  その日、僕の人生の輪は、大きく狂い始めたのだ。
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