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慶応四年、九月…会津藩
若松城下の北方約八里の高原にて
「もう少しだ。もう少しで鶴ヶ城が見えてくる」
「焦るな久茂。とにかく、兵を少し休めなければ」
その日、会津藩士である永岡久茂は、いまだ戦闘が行われている会津の鶴が城へ向かっていた。
その永岡の共をするのは小林嘉兵衛という人物と、百人ばかりの兵隊だ。
永岡と嘉兵衛、それに兵士たちは今、鶴ヶ城…
会津若松城に籠城している仲間たちを助ける為、会津の街道を突き進んでいる。
しかし…
「皆ももう限界だ。少しばかり休みをとらせろ」
と、嘉兵衛が言うように、ずっと小走りでここまでやって来た兵士たちの顔には疲労の色が見える。
「………っ、分かった」
永岡も仕方なく、嘉兵衛の言う通りにする事にした。
疲れきった状態で戦闘になればどうなるか…
鳥羽伏見の戦いを経験した永岡にはよく分かっている。
「だが、俺は先に行く。
鶴ヶ城がどうなってるか…気になって仕方ない」
「分かったよ」
とにかく城の様子を知りたい永岡は兵を嘉兵衛に預け、自分は一足先に若松城に行くことにした。
それだけ、嘉兵衛は永岡から信頼されている存在だ。
嘉兵衛がその言葉に頷いたのを確認した永岡は、“稲村”という小さな農村を通り抜け
若松城に続く道を走っていった。
永岡はこの時29歳。
まだまだ体力は残っていた為、
自分よりも6歳年上の嘉兵衛を残し、永岡はやがて稲村に入った。
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