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「小林…千絵さんか…」
永岡の頭に一瞬だけ嘉兵衛の顔が浮かんだ。
何故なら、嘉兵衛の名字も小林だからだ。
だが
(嘉兵衛は確かひとり者だ。妹や娘がいるとは聞いてないな)
と、たまたま嘉兵衛と名字が同じだけだという考えがよぎったので、別に何も言わなかった。
「こちらも名乗らなければな。拙者は永岡久茂と申す。
少しお聞きしたいが、あなたの生まれはこの辺か?」
小林という名字を名のっている以上はどこかの武家の出だという事だろう。
だが、千絵の答えは永岡の考えと違っていた。
「この村の者ですよ。農民なんですがね…小林と勝手に名のっているだけです」
「そうか…それにしてはかなりのお手前だったが…」
「どうも。なにぶん、武術を少しかじった事があったので。
しかし…今回は永岡殿がいなければ私の村を荒そうとした輩を倒せませんでした。
どうも、ありがとうございます」
丁寧に頭を下げた千絵の姿を見て永岡は疑問に思った。
(言葉使いから態度まで…まるで武家のそれだ)
そう思っていると、永岡は千絵の持っている刀にふと目がいった。
「それは?」
永岡が聞くと千絵は
「鉄刀です」
と答えた。
その刀は小太刀くらいの長さで、刃がついていなかった。
「という事は…」
永岡は地面に倒れている兵士たちを見る。
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