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教室に着き、窓際の最後尾にある机に鞄を置き、腰を下ろす。
明良が入ってきたことで、先に教室にいた生徒が一瞬ビクつく。
彼はクラスメイトから、まるで不良のように扱われているようだ。
髪を染めたり、授業をサボったり、誰かを直接殴った所を見られたわけでもないのだが、明良の刺々しい雰囲気には畏怖の念を抱かざるをえないらしい。
それを気にすることなく、鞄から教科書を取り出す。
鞄の中身をすべて吐き出させると、彼は一冊の本を開いた。
木原紫苑の作品――つまり彼の姉が書いた本だ。
学校での暇な時間、明良は姉の本を読むことで時間を潰していた。
その影響かは知らないが、紫苑が本を出しているレーベルと同じ本にも、興味があるものには目を通している。
娯楽に興じる人なら解ると思うが、自分と同じ本、音楽、テレビを好んでいる人を見かけると、なんだか嬉しくなることが無いだろうか。
それは彼も同じだ。
自分の好む作品――特に姉の作品――を誰かが面白いと言っていれば嬉しいし、不評を洩らしていれば不機嫌になる。
常に気を張っている明良のことだから、それを周囲の人間が察知することはまず無いが。
彼が本に目を落とした数分後、今朝よりも増した騒がしい声と共に教室の扉が開かれた。
その音源を一瞥する。
一人の男を中心に四人の女がそれを囲んだ集団だ。
女達が男を取り合うかのように喚き、それを男がよわよわしく宥めようと口を動かしている。
「ちょっと離しなさいよ!!」
「そっちこそ!」
「ちょ、ちょっと落ち着けって……」
傍から見たら四人もの女を侍らしている男――風見透(かざみとおる)を教室にいる女子達も見る。
その眼は愛しい人を見るかのようにトロンとしていた。
いわゆる、『恋する乙女』の顔である。
風見の整った顔立ちは多くの女性を魅了するらしく、さながらラヴコメの主人公が如く周囲の男子から妬みの視線を受けていた。
しかし、これまたラヴコメの主人公染みているのが、彼の鈍感っぷりである。
女子勢から熱烈なアプローチを受けているにも関わらず、それに気付かないのだ。
それが嫉妬に狂った男子達の怒りを焚きあげているらしく、軽い悪循環になっていた。
「(…………ん?)」
ふと、明良の目に風見を取り巻く女達の一人が留まった。
勅使河原椿(てしがわらつばき)。
茶髪のポニーテールが印象的な女子だ。
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