130人が本棚に入れています
本棚に追加
あっさり喋りやがってアイツら……、と内心毒づきながら美姫の話に耳を傾ける明良。
「お父さんが、あなたの知り合いだって言ったら、すぐに話したの」
それも聞いて、今度はそンなンじゃまた騙されるンじゃないかと心配になる明良だった。
「とても感謝していたわ」
「あぁ……そぉかい」
「とりあえずは二人とも、社会復帰出来るようになったら、うちに通わせるとは言ってたわ」
「へぇ……そりゃ安心だ」
そう口にすると同時にチャイムが鳴り、担任である四宮が入ってくる。
「はぁい、席についてぇ」
立っていた生徒がぞろぞろと席に着く。
それを合図に、美姫との会話も切れた。
「椿。なんか元気無いけどどうした?」
「……え? ううん、なんでもないよ」
「椿の事はいいからこっちの話に集中してよ透」
教室の中心辺りから相変わらずの騒がしい会話が響く。
勅使河原の心配をした風見の気を引こうとしている金髪をツインテールに結んだ、童顔の女子――榊原禊(さかきばらみそぎ)が彼女を睨む。
しかし勅使河原はそれに気付かずに、変わらず浮かない表情をしていた。
(……まるで、過失で人を殺したよぉな面だな)
風見の知らない――或いは気付いていない――勅使河原の事情を知っている明良はため息を洩らす。
「はぁい、そこ静かに」
四宮の注意に榊原が素早く返した。
「鈴せんせえ、あんまし人の恋路に突っ込まないでくださぁい。馬に蹴られますよぉ?」
「はいはい、とにかく今はHRだから大人しくね」
「ちぇっ……はぁい」
冷たく返す四宮が気に入らなかったのか、榊原はそれ以上口ごたえすることも、風見に絡むことも無かった。
軽い連絡事項を知らされ、HRが終わる。
これからまた、明良の退屈な惰性の一日が始まる。
少なくとも、明良自身はそう思っていた。
――――――――
放課後、例の姉弟について確認するため、明良は理事長室へと向かっていた。
彼の表情はどこか疲れを感じる。
それも当然と言えば当然。
何故か美姫が、やたらと話しかけてくるのだ。
移動授業があれば、
『……次は移動教室よ。場所分かる?』
と訊ね、宿題の提出がある授業の時は、
『……きちんと宿題、やってきた?』
と気を配る。
いつも以上に饒舌な美姫に、彼は戸惑うばかりで、気のせいではあるのだが彼女のペースにずっと乗せられているような錯覚に見舞われた。
最初のコメントを投稿しよう!