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――――煩い。
「おはよー」
「おはよー!」
――――喧しい。
「ねえ、お昼一緒に食べよ?」
「あっ、抜け駆けすんじゃないわよ!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて……」
――――うざい。
「一緒に帰ろー!」
「おー」
「あー! ズルい、あたしも!」
――――妬ましい。
一般的な風景。日常。
朝、生徒や教師間で交わされる挨拶。
授業を真面目に受ける者、気だるげに受ける者、はなっから受ける気の無い者様々な授業風景。
友人同士でくっついて昼食を摂る昼休み。
部活に向かう者と、友人を巻き込んだ道草を喰う者に分かれる放課後。
それら全てを、煩わしそうに、或いは妬ましそうに眺める青年がいた。
木原明良(きはらあきら)。
目元を覆うくらいの、無造作に伸ばされた手入れの施されていない黒髪。
光を灯していない、周囲の人間を射殺すような鋭い眼。
男子高校生の平均身長よりも高めな体躯。
誰も近付けさせないような、刺々しい雰囲気。
彼は教室から人がいなくなってからも、そこに居続けた。
窓をボーッと眺めながら、椅子に全体重を預ける。
「……まだいたの?」
「…………ああ、委員長か」
明良が窓から視線を外し、教室の入口へと向ける。
そこには、一人の女子生徒が立っていた。
「……わたし……ちゃんと名前があるの。……委員長は……何だか気に入らない」
「…………上鷺宮、美姫……だっけか?」
「……覚えてる癖に……意地が悪いのね……」
そう言って彼女――上鷺宮美姫(かみさぎのみやみき)は唇を尖らせる。
腰ほどまである黒髪を、二つにまとめてお下げにしている。
明良程では無いにしろ、冷えきった眼光。
色白な肌に、可愛いというより綺麗な大人びた顔つき。
あまり饒舌ではないこともあり、どこか近寄りがたい令嬢のような雰囲気を晒している。
彼女自身や明良が言うように、美姫は二人が所属するクラス――一年三組の委員長だ。
「…………で? 何の用だ?」
感情の籠らない平淡な声色の明良。
その言葉を聞き、美姫は呆れたようにため息を吐く。
「……いい加減、下校時刻よ。……早く帰れば……?」
「ああ……もうそンな時間か。なら、お前だって帰らないのか?」
「わたしは……今から、帰るとこ……」
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