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明良も美姫もクラスに親しい人間がいないせいか、いつもとは違う――異常とも取れる光景に口を出す者はいなかった。
それでも好奇の視線を避ける事は出来ず、明良は一日不快な気分を味わわされることとなったのだ。
「ったく、なンだってンだよ……」
愚痴をこぼしつつ、理事長室に着いた彼はノックもせずに扉を開ける。
「だから、ノックくらいしたまえ」
「うるせぇ」
秀紀の文句を流し、明良は今日彼の娘が言っていた事が事実か確認をとる。
「昨日の姉弟、引き取ったらしいじゃねぇか」
「君が危害を加えるなと、儂に言ったんじゃないか」
不敵に笑いながら答える秀紀に苛立ちを隠せない明良は言及した。
「ホントぉに何もしてねぇンだな?」
「美姫から聞いてるだろ?」
「そぉだ、その事も訊こぉと思ってたンだ」
「ん? 何がだ?」
唐突な娘の話題に意外そうに眉をあげる秀紀。
彼が娘に何か吹き込んだのでは無いかと思っていた明良はそれが癇に障り、声を荒立てる。
「何がじゃねぇンだよ! なンでアイツがやたら話しかけてくンだって訊いてンだ!!」
しかしそれでも秀紀は変わらない調子で、
「美姫が? お前に? ほう、珍しいな……。いや、遂にと言うべきか」
多少丸くした眼を細める。
「……ホントぉになンも知らねぇのか?」
「ああ、生憎な。そもそも、あの年頃の娘の気持ちが、父親に理解出来るわけないだろ」
秀紀に非が無いと知った明良は声を抑え話を続ける。
「まぁ、アイツの事は後だ。今はあの姉弟の事だよ」
「美姫から聞いた事が全てだ」
「ホントか……?」
「この儂を疑うのか?」
「七歳のガキに殺し屋やらせる野郎を、どぉやって信用しろってンだ」
「ふむ、それもそうだね。なら君が直接様子を見に来ればいいじゃないか」
「ふざけンな。ンなめんどい事誰がやるか」
「だが、あの二人は君に会いたがっていたぞ?」
「ここに通わせるンだろ? だったらその内嫌でも顔合わせるだろ」
秀紀が理事長を務める上鷺宮学園は、幼稚園から大学まで一貫出来る学園だ。
そのため、校舎や敷地も馬鹿みたいに広い。
園児が通うA校舎。
小学生が通うB校舎。
中学生が通うC校舎。
高校生が通うD校舎。
それらが特別教室や職員室、保健室の固まったE校舎――この理事長室も含まれる――を囲うように建てられ、それぞれが渡り廊下で繋がれている。
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