勅使河原椿 ~変化~

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「まぁ、今はまだそれくらいでも構わないだろう。君は変わらず、美姫の話し相手になってくれ」 「……分かったよ」 秀紀の頼みに断りを入れる事が出来ず明良はそれを了承した。 これ以上訊く事は無いと、彼は踵を返す。 その際、 「そうそう多分だけれどね、当分仕事は入らないだろうから」 という秀紀の言葉が耳に入るが、返答することなく明良は理事長室を後にした。 廊下を歩く中、嘆息する。 美姫の態度は明日からも続くかもしれないのだ。 そう思うと、明良は明日からが憂鬱になる。 毎日続けばその内注目を集めることも無くなるのだろうが、やはりそれまでの間は見られるのだろう。 「――――ん?」 鞄を取りに教室へ戻ってみると、二つの人影が明良の眼に映った。 人影はどちらも女性のものだ。 服装からして一人は教師、もう一人は制服なので生徒だろう。 生徒のほうは茶髪のポニーテールが特徴的だ。 「……勅使河原?」 教卓で勅使河原と女教師――担任である四宮が向かい合って何かを話していた。 「勅使河原さん。入学式以来元気無いけど、どうしたの?」 大方、春休みを境に途端に暗くなった勅使河原を心配した四宮が呼び出したのだろう。 勅使河原は四宮の言葉に何も返さず、ただ黙って下を向くだけだ。 隠れて見ているのもどうかと思った明良は、堂々と教室内に足を踏み入れ自分の席へと向かう。 「あ、あら木原くん。まだ残っていたの?」 明良に気付いた四宮が焦って声色で言う。 その言葉に反応し、勅使河原も慌てたように振りかえる。 「ええ、ちょっと理事長に用がありまして」 いくら心を開いていないとは言え、教師に敬語を使わない彼ではない。 明良はそのまま鞄を持って教室を出ようとする。――――が。 「――――待って」 勅使河原に呼び止められ、足を止めた。 「あぁ?」 「木原くんに訊きたい事があるんだけど」 彼の睨みも気にせず、勅使河原が言う。 「先生。木原くんも一緒なら話す事が出来る……かもしれません」 「え?」 「はぁ!?」 一旦四宮先生の方へ身体を捻った彼女の言葉を聞き、四宮は不意を突かれたような、明良は無理難題を押し付けられたような声を上げる。 当然勅使河原に納得のいかないのは明良だ。 「おいなンのつもりだ勅使河原!!」
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