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「風見くんは、その事を……?」
四宮が当事者に部類されるであろう風見について訊く。
が、勅使河原は静かに首を横に振るだけだ。
それを受け四宮は、
「そう……。幼なじみって、片恋でもしていないとホントに気にならないものだものね……」
と遠い目をして言った。
まるで自分の事を語るかのように。
「勅使河原さん。木原くんと二人っきりにした方がいい?」
その質問に対しても、彼女は静かに首を振るだけだ。――が、今度は縦に。
「わかった。じゃあ、先生は席を外すわね」
明良を置いて勝手に話が進むが、彼はそれに対して何も言わなかった。
教室を出ようとする四宮がこちらに振り返り、勅使河原に達観したような表情で口を開く。
「その事を風見くんに言いたいと思ったら、素直に言いなさいね。人間、言葉に出さなきゃ通じないんだから」
彼女が悲痛にも見える表情を浮かべているのは、勅使河原の力になれなかったからか、それとも、過去に似たような事でもあったからか。
しかしそんな事、明良にはどうでもよかった。
四宮が教室を出、辺りがシンと静まる。
今の空間で、四宮がどれだけ話していたのかが分かる程。
「……ねぇ」
しばらくして、勅使河原が重い唇を開いた。
「どうしても、答えてくれないの?」
このままだと押し問答になると踏んだ明良は、仕事について触れないように話した。質問という形で。
「風見は……あのガキの見舞いには行ってねぇのか?」
勅使河原の眼が見開かれる。
それは明良があの場にいたという証明だ。
表情を沈ませた彼女は、何かに脅えるような震えた声色で言葉を発す。
「…………え、ええ。透は、あの事を覚えていないわ」
その言葉に深く嘆息する明良。
その眼には風見に対する侮蔑が籠っていた。
「さっきの先生の言葉じゃねぇが、それは言った方がいいだろ。ってか言え」
「で、でも……」
「そもそもあれは、風見の身勝手な暴走が生ンだ悲劇だ。それをなンでてめぇが気に病ンでンだよ」
「だって……あたしだったら、透を……止められたか、か、な……って」
徐々に涙混じりな言葉になっていく勅使河原に、さらに明良はため息を吐く。
「まっ、それを風見に言うのも隠すのも、てめぇの自由だ。好きにすンだな」
彼はこれ以上話す事が無いとでも言うように鞄を持ち直し、教室の扉に手をかける。
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