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そぉかい、と言い捨て、鞄を持って立ち上がる明良。
教室を出ようと美姫の隣を横切ろうとする。
「…………お父さんが、また依頼したいって……」
明良と美姫の体が並んだ瞬間、彼女はボソリと呟いた。
それを聞き、一瞬動きを止めてから、明良は再び歩を進める。
教室から遠ざかっていく彼の背中を、美姫は冷たい眼でジッと見つめていた。
夕陽が射し、少し幻想的な廊下を歩く。
彼の足は、昇降口には向かっていなかった。
校舎二階にある、職員室の隣の理事長室。
そこが彼の向かう所だ。
一日を惰性で過ごした明良は、放課後はすぐに帰るか、理事長室に寄るかのどちらかを選ぶ。
いつもは理事長直々に携帯へとメールが入る。
今日のように、『娘』が直接伝えに来るという事は、極稀どころか今回が初めてだ。
木原明良と、彼の通う私立上鷺宮学園の理事長、上鷺宮秀紀との関係を語るなら、まず先に明良について説明をしたほうが良いだろう。
彼の名――木原明良は偽名だ。
彼がその偽名を使うには、二つの理由がある。
一つ、彼――と彼の姉――は死んだものと世間に認識されている。
彼らの戸籍は彼らが小学生の時、既に鬼籍に入ってしまったのだ。
今はそちらよりも、もう一つの理由が重要だろう。
彼は殺し屋を営んでいる。木崎という名を使って。
そのため、苦し紛れも良いところだが彼の正体を察させない為に偽名を使っている。
そして、更にコレが最も重要。
殺し屋としての彼のマネージメント――つまり依頼の仲介人を上鷺宮秀紀がしているのだ。
詳細は省くが、鬼籍に入った彼が高校に通えるのも、上鷺宮秀紀のコネが関わっている。
もっとも、彼は既に学生が受けるべき教育課程を終えているのだが。
にも関わらずに通っているのは、上鷺宮秀紀なりに理由があったのだ。
それに関しては、『娘』――先程明良と話した委員長、上鷺宮美姫が関係している。
故に彼女も、彼が父とどういう関係か知ってはいる。
だが彼が学校に通っている意味までは教えられていないようだ。
「…………失礼します」
職員室の隣にある、仰々しい造りをした扉を、ノックもせずに開く。
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