勅使河原椿 ~事件~

4/6
前へ
/103ページ
次へ
突き飛ばされる男。それに伴い、風見もその場に倒れこむ。 「ぐぅっ……!?」 「ぅわっ!」 突進された男が「このガキぃ!!」とすぐさま起き上がり、銃口を向ける。――――勅使河原に。 美姫達はぎょっとしたが、明良、そして銃を突きつけられている勅使河原自身は動じなかった。 それがその男の――『あの時』の残党の手口だからだ。 見せしめとして赤の他人を殺し、恐怖感を植え付けるというもの。 風見はというと、倒れた時に頭でも打ったのか、呻きながら頭部を抑えている。こっちの状況には気付いていないようだ。 またかよ、あいつ。 明良は胸中で風見を詰る。 風見は何も変わっていなかった。 『あの時』から何も……。 勅使河原は諦めたのか、すぅっと目を閉じている。 それを見た榊原が騒ぎ出す。 「ちょっ、なんで勅使河原を打とうとしてるのよ!?」 「うるせぇ!! この正義の味方様に『また』教えてやんだよ。自分の行いが何を生むのかをさぁ!!」 男が引き金を引いた――瞬間、明良はかばうように勅使河原の前に転がった。 縄を外し、四肢が自由になった状態で。 「木原くんっ!!」 珍しく美姫が取り乱す。 衝撃を受け、そのまま転がる明良。 止まると、何事もなかったようにムクリと起き上がる。 「なっ!? てめぇ……!!」 男が苦渋の声を上げる。 明良は身体に巻きつく縄の残りを払落し、ブレザーのボタンを外して、その下を見えるようにした。 「縄はナイフで切った。そンで、下に防弾チョッキ着けてンだよ」 周囲の男達が動揺を露わにする。 当然だ。普通の男子高校生が下にそんなものを着けていると、誰が予想できようか。 しかし、勅使河原に銃口を向けた男だけが、別の驚きを見せていた。 「てめぇ……まさか!?」 「よぉ、覚えてたンかよ。バスジャックの次は誘拐たぁ、とことん救いのねぇ屑だな」 言いながら、明良はチョッキの下に手を入れる。 「大方、上鷺宮の娘を誘拐して、身代金でも要求でもしたンだろ?」 取り出したのは拳銃だった。 男達にも、風見の取り巻き達にも動揺だ走る。 明良は、 「風見ぃ!!」 今も尚倒れたままの風見に言う。 「てめぇは結局そンなもンなンだよ!! 力もねぇくせにわけのわかンねぇ正義感働かせて、それが周りに迷惑をかけるっておもわねぇのか!?」 風見が僅かに顔を上げる。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

130人が本棚に入れています
本棚に追加