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上鷺宮学園を出て、駅の方へ向かうこと十数分。
そこには『喜多守総合病院』が設立されている。
喜多守市の中では最も大きい病院で、あらゆる医療施設が設備されていた。
というのも、『上鷺宮』、そしてそこと友好関係を結んでいる『漆原製薬』の援助があるからだ。
ちなみに、大きな建築物の裏手には診療所ほどの小屋があり、そこで闇医者が、公にはできない怪我人を匿っていることを、一般人は知らない。
総合病院の正門に立つ明良も、未熟な頃はよくお世話になったものだ。
今も、紫苑が病気にかかった時にはその闇医者を呼んでいる。
しかし、彼の目的は診療所ではなく、総合病院だ。
自動ドアを通り、エレベーターに乗る。
無機質な機械音を共に扉が開き、下りた場所は入院患者が過ごす病棟だ。
そこの奥にある個室。
とある少女の名がネームプレートに刻まれていた。
閉まっている引き戸を開く。
その先には、仰々しい機械とベッドに横たわる少女。そして、それに付き添う形でパイプ椅子に腰かける女性がいた。
「あら、どちら様?」
疲労を感じさせるやつれた相好の女性が振り返る。
年は三十前半くらい、といったところだ。
おそらく彼女のやつれたそれは、肉体的な疲労ではなく、精神的なそれであろう。
何故なら、ここの入院費は無償で、上鷺宮が払っているのだから。
「あのバスジャックに、関わっていた者です」
「まぁ……あなたも……?」
消え入りそうな声。
それに罪悪感を覚えつつも、明良は首肯する。
ベッドに横たわる少女は、バスジャック事件においての、唯一傷を覆った被害者だ。
要するに、風見のせいで植物状態と化した少女だ。
「その制服……」
女性――少女の母親の眼が、彼の纏っている服装に止まる。
上鷺宮の制服だ。
「うちの学校のが、ご迷惑をおかけしました」
頭を下げる明良。
彼自身、あの事件には負い目を感じていたのだ。
自分がもっと速く動けていたのなら、結果は変わっていたのではないかと。
辛そうな勅使河原を見る度に思っていたことだ。
しばしの沈黙が続く。
無機質な電子音が、ピッ、ピッ、と鳴り響く。
「あなたは、何も悪くありませんよ」
母親の言葉に、肩がピクリと動く。
目線を少し上げると、優しげな表情で彼女は明良を見ていた。
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