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携帯を開き、画面を確認した明良の相好が歪む。
彼の視線の先には、『雨宮漱助(あまみやそうすけ)』と示されていた。
雨宮漱助。明良の身の上事情を知る、数少ない人物だ。
彼の隣のクラスに所属しており、かつ『漆原製薬凶器部』の統治者である。
彼の事情を知っているとはいえ、彼自身が心を開いているわけではないが。
纏わりついてくる腐れ縁程度にしか思っていない。
そんな雨宮からのメールには、こうあった。
『面倒なことになりそうだ。すまん』
瞬間、携帯を持つ手に力が入る。ミシッと明良の持つそれが軋む。
この文面からして、全く謝罪の念が無いことを彼は知っていた。
明良の眼には、『面白そうでやった。実は反省も後悔もしてない』という文が続いているように見える。
そして、その『面倒なこと』は、今この時、既に起こっていることも、彼を不機嫌にさせる原因だった。
「木原、ちょっといいかな?」
風見だ。いつものように取り巻きを引き連れ、明良の席の前に立っている。
「(……ん?)」
眉を潜ませる明良。
勅使河原がいないのだ。いつもは重たい表情でくっついていたくせに、その姿が見えない。
「勅使河原はどぉした?」
「え? ああ……椿なら……」
風見が目を伏せたのを見て、明良は大体の予想がついた。
それは後で勅使河原本人から聞くとして、今は当面の問題を解決するのが先決だ。
「まぁいい。ンで? なンのよぉだ?」
「ああそうだ。一昨日からお前のことが気になってさ」
一昨日ということは、美姫誘拐未遂のあれだろう。
確かに、目立たないクラスメイトとしか思っていなかった奴が誘拐犯を瞬殺すれば、誰だって興味を持つだろう。
こうして詮索されるのが面倒であったからこそ、明良は『何も話すな』と釘を打ったのだが。
しかし、続いて風見から吐かれた言葉を聞き、彼は更に相好を歪めることとなる。
「雨宮から聞いたよ、木原の事」
野郎……っ! 胸中で雨宮に殺意を向ける。
しかし、彼の脳裏に浮かぶ雨宮の顔は、小馬鹿にするように崩れていた。
理不尽なことだが、それが更に明良の殺意を促進させる。
後でぶん殴る。固く誓う明良だが、その光景を傍から見てみると仲がいいようにしか見れないから不思議だ。
「いろいろ、大変だったな……」
明良の前に立つハーレム男が、慈愛顔で話し始める。
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