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「木原の事、詳しく聞くに連れて、心が痛んだよ」
「ほぉ」
おそらく情報源は雨宮だろう。
彼から聞いたとなると、ほとんどのことが風見の耳に入っているはず。
しかし雨宮も良識のない人間では無い。殺し屋云々についてはさすがに伏せただろう――と信じたい明良だった。
「まだ、そんな若いのに、あんなつらい目にあって、可哀相だって思った」
あぁ? と彼は眉を顰めた。
風見の口から零れる言葉が、不快にとれたからだ。
「でも、いつも一人でいて、平気そうにしてるけど、本当は今も寂しいんだろ?」
「…………」
「俺さ、木原のこと、ちょっと誤解してたみたいでさ。だから、お詫びって言ったらなんだけど、教えてやりたいんだ」
「…………」
「どれだけ可哀相な奴でも、ちゃんと幸せになれるって。不幸なんて、すぐに塗り替え――」
風見の言葉が最後まで放たれることはなかった。
明良が、ガタンッと音を立てながら椅子を立ち退け、立ち上がったからだ。
彼の眼は、明確に風見へ敵意を向けている。
いきなり発声した音に、教室中が静まり返っていた。
その中、ポツリと、明良の口から洩れる。
「…………ざけンな」
そこから決壊したかのように、明良の言葉は流れ始めた。
「さっきから黙って聞いてりゃ、可哀相? 不幸? 随分好き勝手言ってくれるじゃねぇか。あぁ?」
「ぇ……。き、はら……?」
「そうだな、そうだよ、そうなんだよ。聞いての通り、オレは――オレと姉さんはかなり過酷な目に遭ってきたよ」
怒気――或いは殺意を孕んだ声色の明良止まらない。
「けど、オレ達は自分を可哀相なんて思ったことは一度もねぇ。一度たりともねぇンだ!」
「そ、それは……」
「同情結構! 実際辛かったし、逃げたかったし、泣いたことも何度もあった!! だけどなぁ、可哀相なンて勝手な見解を持たれるのだけは勘弁ならねぇ!!」
周囲の人間が奇異の目を向ける中、美姫だけは――正確にはもう二人いるが――真剣に、明良へ視線を遣っていた。
「オレ達がここまで生き残れた理由は、いろンな奴に助けられたきたからだ。けどなぁ、そこにはオレ達の意地だって、確固たるものだってあったンだよ!!」
「…………」
「可哀相だなんて思われたくないって意地があったンだ!! 泥水啜って生きることなろぉと、幸せになってやるってよぉ!!」
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