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「ちょっと木原!!」
風見の背後にいた榊原が二人の間に割り込み、明良をねめつける。
「さっきから黙って聞いてれば好き勝手言って。アンタには透の優しさが分からないの!?」
「分かるわけねぇだろっ!!」
「なっ……!」
明良の迅速あ切り替えしに怯む榊原。
「大体優しさだぁ? ンなもン、こいつから微塵も感じたことはねぇよ!!」
風見の相好が傷ついたとでも言うように曇る。
「こいつは、結局自分を綺麗に飾りてぇだけなンだよ。困ってるやつに手ぇ差し伸べる俺ってカッコいいってタイプなンだよ!! そンなもん、偽善にすらとどかねぇ自己満足だ!!」
その自己満足に犠牲になった少女。
犠牲になりかけた少女。
その二人の事もあるから、否、あるからこそここまで激昂しているのかもしれない。
一度呼吸を整えると、彼は荒げそうになる声色を抑えようと努め、風見に訊いた。
「風見。その同情は素直に受け取っとく。だから聞かせろ。なンでてめぇは、オレに手ぇ差し伸べようとした?」
僅かに溜め、風見は恐る恐るとではあるものの、言った。
「可哀相だと……思ったから……」
それを噛みしめ、明良は口内で返した。
話にならない、と。
「…………帰る」
呟き、カバンも持たずに教室を出ようと、踵を返す明良。
瞬間、彼を止めようとする声が上がった。
「…………どこいくの?」
美姫だ。不安そうな表情を浮かべ、こちらを見ている。
「言ったろ。帰る」
吐き捨て、彼はその場を後にした。
後方から彼を責めたてる声が沸いたが、気に病むことも、気にすることも無い。
そのまま、明良は歩を進めた。
――――――――
騒がしい教室の中、美姫は扉の方を茫然と眺めていた。
彼女の斜向かいで、榊原が風見を慰めている。
それに目もくれず、彼女はただ、この場を去って行った男子生徒の事を気に掛けていた。
「あの、上鷺宮さん」
唐突に上から降ってきた声。
見上げると、勅使河原が立っていた。
「何があったの?」
「…………」
黙り込む美姫に戸惑う勅使河原。
すると、美姫にとって不快でしかない声が、今度は耳に付いた。
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