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「ごめんな、上鷺宮さん。煩くして」
風見だ。眉を八の字に歪め、すまなそうに頭を垂れている。
美姫は自分の胸中を偽ることなく「まったくよ」と詰った。
折角明良と会話することができたのに、本当にどうしてくれるのだ。
彼女は苛立ちを帯びた視線を風見へ刺す。もっとも、低頭している彼にはそんなこと、知る由もないのだが。
率直に言って、美姫は明良同様風見を好ましく思っていない。寧ろ嫌いと断言できるだけ、明良以上に嫌っている。
まず第一に、慣れなれしいからだ。
自分のハーレム連中とフレンドリーに接しているからと言って、親しくもない相手に、まるで旧友のような態度をとっているところが気に入らないのだ。
そして第二の理由は明良同様、無責任な無謀さだ。
翔子の治療費が無償で免除されているのは、彼女の存在だ芯だったりする。
他にも諸々あるのだが、要するに、自分に下心見え見えで接触してくるナンパ男よりも嫌いなのだ。
必然、流れ的に風見の隣に立つ勅使河原は、複雑そうに目を伏せている。
「なによその態度。委員長だからって調子に乗ってない?」
敵意の視線を向ける榊原に何か返すことも無く、美姫は鞄に教科書を詰め始める。
「あれ、どうしたの?」
勅使河原の質問に彼女は一言、「帰る」とだけ告げた。
携帯で父親に早退する旨を伝え、席を立つ。
「どこか具合悪いの?」
こちらの調子を窺う風見に何も返さず、美姫は教室を後にした。
正直、明良の味方のいない空間に身を置くのは、不愉快極まりなかったのだ。
彼の事、知ろうともしないくせに……。
胸中でクラス全体を詰りつつ、ただただ無言で、美姫は歩を進めた。
――――――――
「何よあれっ!」
勅使河原の横で、榊原が苛立ちの声を上げた。
「ホンットムカつく! 何なのあのすかした態度!」
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