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「…………じゃ、またね。お父さん」
「ああ」と手を振る父親――秀紀に背を向け、理事長室を後にする美姫。
普段は会話を交わさない父親のところに、自主的に訪れたのはほかでもない、明良の住所を訊き出す為だ。
快く教えた秀紀だが、堂々と学校をサボっている娘をスル―し、あまつさえそれを助長するよなことをしているのは、父親としてはどうなのだろうか。
しかして目的の少年の住所を手に入れた少女は、歩のスペースを徐々に上げつつ、階段を下る。
靴を履き替え、校門を通る頃には、もはや小走りと化していた。
息を切らし、道を駆ける。
思いのほか父親の所で時間を費やしたせいか、進めど進めど、明良の背中が見えてくることはなかった。
そのまま数分後。
彼女は目的地である一軒家に辿り着いていた。
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美姫が彼の家に辿り着く数分前、明良は玄関を通り、沓脱で靴を転がす。
「あれ? おとうとくん? 学校は?」
「ただいま」と言う前に紫苑の声が降ってきた。
「ただいま。ちょっとね、体調が悪いから早退してきた」
帰りの挨拶と共に帰宅の理由をでっちあげる。
クラスメイトと喧嘩し、勢いで帰ってきたなどと、言えるはずもなかった。
彼の言い訳を鵜呑みにした紫苑は「ええっ!? だだだだいじょうぶなの!? おとうとくん!!」と、慌てた声を響かせている。
続いて、ベッドから落ちたであろうドタンッという音が響く。
「姉さん!? 大丈夫!?」
階段を駆け、その勢いを殺すことなく姉の部屋へ飛び込む。
「えへへ……。逆に心配掛けちゃったね」
仰向けに転がっている紫苑が、苦笑を弟に向ける。
「冗談言ってないでっ。怪我無い? 痛いところ無い?」
姉を抱き起し、彼は身体に異常がないか調べようとした。
しかし、「ぉうっ、だいじょうぶだよ」と仰け反りながら言い、紫苑はすぐに立ち上がる。
そして続けて「おとうとくんこそ、体調大丈夫?」と彼の顔を覗き込む。
「うん、帰りには大分落ち着いたから」
微笑み、姉の肩をそっと押す明良。
しかし、彼女の心配そうな相好は戻ることはなかった。
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