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「ははは、本当に大丈夫だから」
苦笑を浮かべつつ、明良は踵を返す。
紫苑が何か口にする前に「念のため、部屋で休んでくるよ」と残し、彼は紫苑の部屋を後にした。
姉の部屋の隣の扉を開く。
眼前に広がるのは、殺風景、そして、人目で危険だと解る風景だ。
置かれている物は、紫苑の部屋と大して変わらない。
パソコンの代わりに学習机があり、その隣にベッド。クローゼット。
反対に一つポツンと置かれている本棚には、紫苑の本、そして彼女と同じレーベルの本が並べてある。
その中に、存在を主張する遺物があった。
彼の部屋を、一般的な学生の部屋たらしめない物が、本棚の隣にあった。
並べられた、五つの黒いアタッシュケース。
それだけならば、さして違和感もなかろうが、それの上に無造作に置かれている銃を見ても、この部屋を一般的と形容できる人間は、ややどころかかなり常軌を逸脱している。
制服のネクタイを少し緩め、ベッドに倒れこむ。
その際、ガチャリと何かが金属音がし、彼の身体に押し付けられるが、それを気にせず仰向けとなる。
天井を眺めながら、先ほどの風見の言葉を思い出す。
『可哀相……だから……』
奥歯を噛みしめる。
苛立ちから相好が歪む。
かつて、明良――そして紫苑に、あそこまで明確に憐れみを向けた人間はいなかった。
彼らに手を差し伸べてきた人間は皆、『自分の為』と言っていた。
理由は様々だったが、少なくとも、彼にとってはそちらのほうが分かりやすかったし、安心した。
自分が必要とされているから。
風見の言葉は、所詮憐れみ。明良が『可哀相』故に手を差し伸べられたのだ。
そこに、明良を必要とする意思は皆無。
悪く取れば『可哀相だから手を貸してやるよ』という解釈になる。
ツンデレが照れ隠しに言うのとではわけが違う。
自分の存在意義が『可哀相』だなどと言われれば、誰だって不快になる。
意識を微睡みに預けようと瞼を下ろす。
徐々に意識が沈み始めた瞬間――彼の意識は引き戻された。
インターホンの無機質な音によって。
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