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紫苑は出られないため、必然明良が出るしかなかった。
正直な話、気怠い身体を動かしたくなかったが、仕方ないと自分を納得させ、階段を下る。
繰り返しインターホンの音が鳴り、明良の歩調が上がる。
無言のまま玄関を開く――と、彼は絶句してしまった。
扉の先には、上鷺宮美姫が立っていたからだ。
「…………なン、で」
「…………上がっても、いい?」
「あ、あぁ……」
玄関の扉を、人が通れるほどに開き、来訪者を通す。
軽く会釈をし、そこを通った美姫はそのまま沓脱で靴を脱ぎ、家に上がる。
「おい、てめぇ学校は?」
「……急に帰るんだもの」
心配になって、早退してきちゃった。
そういって僅かに口角を上げる美姫を見て、明良は唖然とした。
「放課後くりゃ、良いだろぉが」
「もしかしたら、仕事入るかもだし」
美姫はそのまま進もうとした。
誰も使っていないせいで埃まみれとなっている一階の中を。
「ちょ、ちょっと待て。今、茶もってくっから」
美姫を止め、台所に行こうとする明良。
その彼の腕を、美姫が掴んだ。
「……?」
訝しげに振り返り、美姫を見る。
彼女は俯き、沈黙を保っていた。
「…………」
「…………」
そのまま無言の時間が続く。
明良には、何故彼女がこんなことをしているのか、そもそも、何故この家に来たのかすらも分からなかった。
すると、美姫が唇を動かす。
「…………んで」
「……あ?」
「なんで、そんなに辛そうなの?」
明良の表情が固まる。見開かれた双眸で彼女を写す。
「何が言いたい……?」自然と、唇が震える。
顔を上げた美姫は無表情のまま彼を見据え、続けた。
「話してくれない? あなたのこと。あなたの、これまでを」
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