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「なんでてめぇに、ンな事話さなきゃなンねぇンだよ?」
感情が完全に抜け落ちた表情――『木崎』の顔で美姫を睨む明良。
その双眸も、冷たい無機質なもの。
しかしそれに写る彼女の眼もまた、彼に負けず劣らず冷たかった。
「……いい加減ね、限界なの」
「なにが?」
「あなたと友達未満なことが」
「で?」
「……風見なんかが、わたしよりもあなたを知っているのが……許せない」
その言葉の意味が理解できないほど、明良はラヴコメの住人ではない。
だからこそ、彼の疑惑は別のものだった。
「わかンねぇな……。てめぇがそこまでオレを気にする理由が」
「それは――」
咄嗟に反応を見せる美姫。その言葉を遮るように、明良は続ける。
「無論、てめぇがオレを好意的に見てるってのはわかンだよ。けど、それまでに至る経緯がわかンねぇ。オレは言うほど、てめぇと接した記憶はねぇぞ」
朝会っても、席が隣同士なので軽く挨拶を交わしておこうという程度の関係だった。
そんな関係では、好感度が上がる事象など起こり得るはずもない。
そして、そんな事を起さないように警戒もしていた。
一体何が、彼女をそこまで彼に執着させているのか。
「…………あなたも、そしてお父さんも」
「あ?」
「わたしが、気付いてないとでも思っているの?」
「……!」
秀紀の方はともかく、明良が彼女にしている秘め事など、一つしかない。
そもそも、『仕事』のことは美姫は知っている。し、つい先日もそれについて触れてきたのだ。
そうなると、秘め事は『仕事』の方ではなく『依頼』。
美姫を守ってくれという、秀紀からの依頼――頼み。
それを彼女が知っている――かもしれない――ことに、明良は驚愕を露わにした。
「ばれていない、とか思ってたの?」途端に饒舌になる美姫。
「…………」
「わたしがいじめられている時は、それがはたと止むし、それ以降も、まったくわたしに危害が加わることなんてなかった。それを、ただの幸運だなんて思える?」
「……思えねぇな」
「それに、小学校六年の頃、偶然見ちゃったの。あなたが、男子達と殴り合いしているの」
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