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紺碧の空の中、薄暗く月が輝く。
旅館のような和風の屋敷。
その一室で、男の笑い声と女の悲鳴にも似た矯声、それに肉と肉とがぶつかり合う音が交わっていた。
その部屋に、スーツを見に纏った男が入り、女と繋がった全裸の男に耳打ちをする。
「ああ? 借金が返せないなら娘売らせろ。その娘、中々の上玉なんだろ?」
そう答えた男――錦戸喜平が口角をニヤリと上げる。
彼はこの屋敷を本拠地とするヤクザの組――錦戸組の頭だ。
錦戸組は闇金融を営んでおり、金に困っている人に半ば脅迫染みた方法でそれを貸し付ける。馬鹿みたいな暴利で。
そして、借金を返せなくなった者の身内に女がいた場合はその女を買い取り、いない場合は臓器を売らせる。
この手口で、錦戸は若い女を何人も肉奴隷に調教してきた。
その犠牲者が、また一人浮かび上がったようだ。
錦戸の言葉を受けた男が頷き、立ち上がる。
そしてふと、錦戸の背後にあたる位置に目を向けた。
「なっ!? 貴様、何処から入った!?」
男が取り乱す。
それを見た錦戸も、眉を潜めながら首を捻る。
そこには、髪をオールバックにしサングラスを掛けた、黒ずくめの男が立っていた。
「――――こんばんは、ゴミ掃除に来ました」
これから人を殺すというのに、全く感情の起伏が感じられない声で、黒ずくめの男――木原明良は告げる。
実際、彼は始めから部屋にいた。錦戸や部下が気付かなかっただけだ。
男は咄嗟に懐から銃を取り出そうとした。
しかし、
「…………え?」
既に明良の姿は、男の視界から消えていた。
代わりに、男の首にひんやりとした首輪の様な物が付けられている。
「――――――――!?!!?!」
ピピッと音を鳴らしたかと思うと、首輪が爆ぜた。
必然、男の首と胴体は離れる。
首は部屋の隅に飛んでいき、胴体の首があった筈の部分から鉄臭い液が噴き上がっていた。
「流石は漆原製薬。恐ろしい凶器作ったな……」
明良はいつの間にか錦戸の傍に立ち、男の死体を無機質な眼で眺めながらぼやく。
つい先程まで部屋に響いていた声や音は消え、錦戸の動揺の声が上がる。
「て、てめぇ! 何しやがった!?」
錦戸の傍にいる女の首根っこを掴み、部屋の外――廊下に放り出しながら、明良は口を開いた。
「これから死ぬ奴が、ンな事気にしても仕方ねぇだろ?」
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