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「なっ!?」
屈辱に顔を歪ませる錦戸。
そして、
「おい……おい! 誰か!! 誰かいないか!?」
木原明良――この場では『木崎』と呼ぶ方が正しいかもしれない――から距離を取りながら喚き散らす。
しかし、辺りはひっそり閑としたままで、誰かが来る気配はおろか足音すら聞こえない。
それでも尚、誰か誰かと騒ぎ続ける彼に明良は冷たく一言、
「無駄だ」
と告げ、到底今の言葉が聞こえていたとは思えない錦戸に構わず、口を動かした。
「てめぇの部下なら、全員あの世に逝っちまったぜ?」
「――――は?」
今度は聞こえたのか、錦戸の時間が止まる。
青ざめた表情に汗を張り付け、目を見開いた彼は唇を震わせながらも「ば…………か、な……」と洩らす。
それに明良は「残念ながら真実だ。一人残らず血ぃ噴き出して転がってるよ」と追い討ちをかけた。
「な、何が目的だ!! 金か!? 女か!? 何でも言うことを聞いてやるから助けてくれ!!」
局部を隠そうともせずに額を畳にこすり付け、命乞いする彼に明良は言う。
しかし、それは錦戸にとって救済の兆しでは無かった。
「ったくみっともねぇなぁ……。さっきまでその汚物おっ立てて、元気に腰振ってたじゃねぇか」
「あ……あぁ……助けて……助けてくれ……」
壊れた玩具の様に『助けて』を繰り返す錦戸に冷めた視線を浴びせつつ、明良は懐から部下に使った首輪のようなものを取り出す。
それが部下の首を吹き飛ばした光景を目の当たりにした錦戸にとって、自分を殺す為の物だと理解するのは難しくなかった。
死の恐怖に耐えられなくなった彼は、いよいよ慟哭した。
「く、そ……畜生! 畜生!! 畜生畜生畜生畜生畜生!! なんで殺されなきゃなんねぇんだよ!? ふざけんなくそったれ!!」
唾を飛ばす錦戸にゆっくり近付く殺し屋。
「ぁあ……ああ……あああああああ!! 来るな、来るな! いやだ来るな……ぅぅ……いや来るな来るな死にたくない来るな……ぅあ……やだ来るな……死にたくない来るな来るな……死にたくない来るな死にたくない……ぁ……いやだいやだいやだいやだいやだあああぁぁぁぁ…………」
異臭に明良が顔を歪ます。
見ると錦戸の下に水溜まりが出来上がっていた。
「ちっ、くせぇな……漏らしてンじゃねえよ」
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