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「なんで……いやだ……いやだ……死にたくない……いやだ……なんで……」
「おいおい……。仮にも表の人間が束ンなって殺しの依頼する程怨まれてるンだぜ? もちっと悪の親玉然としてろよ」
呆れた様子で紡がれる明良の言葉など、錦戸は既に聞いていなかった。否、聞けていなかった。
そんなことは重々承知で彼は続ける。
「まぁ、冥土の土産にコイツの説明くれぇはしてやるよ」と、首輪のような物を見せ付けながら言った。
「コイツは、漆原製薬凶器部が作った首輪型爆弾だ。首に付けっと、体温や首筋の脈を感知する。ンでスイッチが入って数秒後にボンッて作りだ」
とうとうと説明する明良の眼は、無機質に首輪型爆弾を映している。
「って、とっくに聞いてらンねぇ状態か……」
それは、殺傷力の高い武器を危なっかしく使うモノでも、やはりこれから人を殺す人間のモノでも、つい先程人を殺した人間のモノでも無かった。
「さってと……そろそろさよならだ塵屑が」
魂が抜けたかのように放心するターゲットに、カチリと首輪を嵌める。
明良が錦戸に背を向けた瞬間、ピピッと電子音が鳴った後、金属の爆ぜる音が続いた。
「ふぅ……後は……塵の後始末か……めんどぉだな」
いや、それより……。
と続けながら廊下に出る。
すると、
「――――ヒッ」
しゃっくりの様な短い悲鳴が彼の耳に入った。
視線を投げると、明良と同年代くらいの少年がへたり込んでいる。
少年の懐には袋が抱かれ、そこから札束を覗かせていた。
借金でも返しに来たのかと明良は考えるが、その考えを直ぐ様否定する。
少年の視線が自分では無く、自分の足下――明良が邪魔だと思い放り出した女に向けられていたからだ。
「…………おい」
「は……え、あ……あの……」
「お前……コイツの弟か何かか?」
女を足で転がしながら問う。
途端、敵意を孕んだ視線を突き刺してくる少年を見て、自分の考えが的中していることを実感する明良。
「大方、借金の片に連れてかれた姉ちゃんを取り戻すために、大金抱えて乗り込ンできたってとこか……」
「…………足を退けろ」
少年の言葉など聞いていないかのように明良は口を動かす。
その口調は、いつの間にか語り口調と化してていた。
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