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「だがしかし、そんな健気な少年を待っていたのは、一つの過酷な事実だった」
足を退かし、少年やその姉に目もくれず、廊下に置いておいたガソリンの入ったポリタンクに手を伸ばす。
「それは、助けようと思っていた姉が性奴隷に堕ちていたという事実」
姉を一瞥する。
眼は光をともしておらず、口元もだらしなく開いていた。
そこから涎や白濁色の液体が垂れている。
そして、姉は確かに笑っていた。
悦楽に浸った、醜い笑みを浮かべていた。
薬か……、と彼は舌を打つ。
「それをまざまざと見せ付けられた少年は、果たしてどうなるのでしょうかぁ」
ポリタンクは五個ほどあり、そのひとつを錦戸の死体が転がる部屋に撒く。
「てめぇに選択権をやる」
その明良の言葉は突然だった。
少年は姉から明良へと視線を移す。
「選択肢は二つだ。このまま姉を引き取って、真人間に戻すよぉ懸命になるか、ここで屋敷もろとも姉を燃やし、何も見なかった事にするか」
空になったポリタンクを放り投げると、二個目に手を伸ばした。
「屋敷中に撒いてくっから、その間に決めろ」
言い残して明良は、屋敷を燃やす為にガソリンを撒いて回る。
その際、至るところに無惨な死体や凄惨な血痕があったが、彼は意識を向けなかった。
路傍に転がる石や、植物の葉に乗っている虫に対するような調子で。
数分後、彼は少年の元に戻った。
ポリタンクが一個余ったなぁ、どうすっかなぁとぼんやり考えながら。
「ンで、決まったか」
少年を見下し、訊ねる。
少年は唇を震わせながら、しかしハッキリと答えた。
「…………こんな姉ちゃん、姉ちゃんじゃない。殺してくれ」
明良は頷いた。
そぉか……と。
そして、余ったポリタンクに詰まったガソリンの使い道を見つけた。
彼は少年に、更に一言だけ発した。
じゃあ死ね――と。
ガソリンを少年の頭から浴びせながら。
「ぶっ……!! な、なにすんだよ!?」
「何って……」
明良はさも当然かのように、1+1の答えは2と言うかのように返した。
「殺すに決まってるだろ?」
彼の言葉に、少年の時が止まる。
その様子は奇しくも、錦戸のそれと似ていた。
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