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彼はあたしの顔も見ないままに、さっさと一人空き教室へと入って行く。
「伊達君、待って」
背中を追い掛けるけれど返事はない。
伊達君は一度も振り返る事なく、黒板近くに乱雑に積まれた机の縁に腰掛けた。
「何で……来たの?」
「えっ?」
「優勝したらって。俺、言ったよね」
中途半端に引かれたカーテンから、束の間の夕空が見える。
うっすらとオレンジの光を背にした彼の姿は逆光の中
その表情は見えない。
「だ、伊達君の話って。何、かな?」
「……」
遠退く夕陽の向こう側。
あたしは空き教室の入り口から動けないまま。
ただ伊達君が、見た事もない表情で微笑んだのが分かった。
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