「完全体」

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「完全体」

「うちのラーメンは日本、いや世界で一番ウマい!なぜならこれがラーメンの“完全体”だからだ!!」 とうとうここの店主もおかしくなったか... 確かにおいしいから通っているが世界一ってほどじゃない。だいたい味に世界一なんて有り得ないだろ。そういえば近場にチェーン展開の店がオープンして最近、客の入りが悪いみたいだから遂にとち狂ってしまったんだな。外食産業の厳しさだな。 「おい!信用してないだろ!とにかく食ってみろ!」 どうやら表情から考えが読み取られたらしい。長年通ってる顔馴染みだからだな。 出されたラーメンをしげしげと眺めてみる。いつものと外見は変わらない。 スープの色も、この店の味である醤油ベースの透明さのままだ。 レンゲに箸で麺を乗せスープとともに口へと運んだ。 「どうだ?」 自信満々で聞いて来る。 ううっ!! なんて味なんだ! うまい! 筆舌に尽くし難い。 表現できない... 「マスター!確かに“完全体”だよ!めっちゃウマい!バリウマい!クソウマい!」 どうやら、ラーメンは完全体と表現されるほどの出来ばえなのかも知れないが 食べた彼の表現力が“不完全体”過ぎて一向に伝わって来ない悲しさが残るのみだ。
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