幕末の才器

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 しかしそれも遅かった。  嘉永二年、半平太がちょうど二十歳になった頃、両親は相次いでこの世を去った。  母は病状が悪化し、父は勤務中に事故にあった。 「武士はいかなる時も、人前で涙を見せる様な事はあってはならない」  父が最後まで半平太に伝えた言葉だ。  半平太は言葉通り、溢れそうな涙を必死に堪えた。  ところが母の優しい顔、父の逞しい後ろ姿が何度も浮かんでくる。  泣くな泣くなと自分に強く念じても、何度も何度も言い聞かせても両目は涙で濡れる。  この時は自分の力で抑える事が出来ず、声を上げて泣いた。
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