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深夜も遅く。
もうすぐ日付も変わろうかという時間に、綺蜂院藤は病室の前にいた。
壁に掲げられているプレートには部屋番号はあれど、名前の欄は空白になっている。
藤はドアに嵌め込まれたガラス越しに中を伺った。しかし、何せ曇りガラスだ、中の様子はハッキリとは見えない。
だが、藤にはドアの向こうに何が居るのか分かっていた。
気を引き締めるために居住まいを正した。次いで、気休めに自分が腕に抱えているものを見た。菓子折りが一つと、布で包んだものが一つ。
「………………」
その一つ、布で包んだものの結び目を解いておく。
藤が再び時計を見ると、あと一分と少しで十二時だった。
藤は時計を見たまま病室のドアに手を掛け、そのままの状態で時間が来るのを待つ。
「…………」
シン、とした無音の空間が病院特有の空気を一層濃くさせている。
今年は残暑が厳しい年だとテレビでは言っていたが、ここはそんなこととは関係無い様だ。
肌に感じる異様な空気。
藤がここに通うようになってからだいぶ経つが、この空気に慣れはしたものの、その印象は最初の頃と変わらない。
――コチッ。
そして、時計の針が十二時を指した。
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