『地獄』――その存在について会話すること。

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 一気に病室のドアをスライドさせる。  消音加工が施されているらしいドアは僅かな摩擦音を発しただけで開いた。  グルルルルルルルル…… 「…………っ」  三つの首と頭に一つの身体。左右の頭は目を閉じているが、真ん中の頭は侵入者である藤を睨み付けている。  地獄の番犬と云われている――ケルベロスだ。 「――やあ、こんばんは」  ケルベロスの後ろに、こちらに向けて片手を上げる少女の姿が見えた。  生白い腕、生気の無い顔、小さな身体。  少女は白いベッドの上に居た。 「さぁ、今日はこちらへ来られるかな?」  少女は妖しく笑って挑戦的な目で藤を見た。 「自信は無いな」  言いながら、足元を見る。  藤の爪先その数センチ前にドアをスライドさせる溝がある。  これが境界線。  一歩踏み出せば、直ぐ様即座にケルベロスが襲ってくる。 「まぁ、期待しないで見ているよ」  そんな少女の言葉に、藤は「それはそれで悲しいな」と返しながら布の包みを取った。布で包んでいた物は竪琴――ハープだ。  藤はその弦に指を掛けた。
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