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そして、ひとつ弦を弾いた。
♪
ケルベロスの耳がピクリと動く。
その反応を見ながら、続けて弦を弾く。
♪ ♪ ♪
頭の中にある楽譜をなぞりながら弦を弾いていく。曲名など忘れたが、とにかく教えられた通り練習した通りに弦を弾く。
♪♪ ♪♪ ♪ ♪♪ ♪♪
直ぐに異変は表れた。
ケルベロスが、うとうとし始めたのだ。
瞬きが多くなり、欠伸を数回繰り返し、首を何度かこくりこくりと揺らし――遂には。
どしゃっ
四肢を伸ばしたまま横倒しになり、そのまま眠り込んだ。
藤は弦を弾く指を止めずにゆっくりと病室に入った。ケルベロスの巨体を迂回し、念の為ケルベロスから目を離さず横移動し――無事、少女がいるベッドに着いた。最後、太股をベッドの縁に当ててしまい、バランスを崩して倒れ込む形にはなったが。
「おつかれさん」
つい、と指先で頬を撫でられた。
「……全くだ」
労いの言葉に短く応えてから体を起こした。
と。
「!」
目前に大きく開かれたケルベロスの口があった。
ジャッ!
という音と共に、カーテンが視界を覆う。
「最後まで閉めて」
言われるまま藤は途中で止まったカーテンを閉めた。
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